Infoseek 楽天

ニュース裏表 峯村健司 石破首相が提唱した「アジア版NATO」に各国反発 目的は中国の抑止か信頼関係醸成か、そもそも概念が生煮え 論よりも具体的な防衛政策を

zakzak by夕刊フジ 2024年10月5日 10時0分

石破茂首相が提唱した「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」構想をめぐり、疑問や批判の声が各国から上がっている。

発端は、石破氏が自民党新総裁に選ばれた9月27日、米シンクタンク「ハドソン研究所」のホームページに発表した「日本の外交政策の将来」と題する寄稿だった。

アジアにはNATOのような集団安全保障体制がないため、「戦争が勃発しやすい状態にある」と指摘し、「中国を西側同盟国が抑止するためにはアジア版NATOの創設が不可欠だ」と主張した。

メンバー国として、インド、オーストラリア、英国、韓国などを挙げた。その上で、アジア版NATOとして、「米国の核のシェア(共有)や持ち込みを検討すべき」と踏み込んだ。

早速、中国外務省の林剣・副報道局長が「前向きで理性的な対中政策を実行するよう望む」と牽制(けんせい)した。中国政府系シンクタンク研究者も「中国を封じ込める構想で地域を不安定にさせる」と警戒感を示した。

一方、米国政府もその真意を測りかねているようだ。

日本が「防衛」を担うだけではなく、日米の安全保障条約と地位協定を見直して「対等な関係」を目指すと石破首相は訴えている。ドナルド・トランプ政権下で安全保障を担った元高官は語る。

「構想自体は否定しないが、もし韓国が攻撃された場合、自衛隊を派兵するつもりなのか。概念を訴えるよりも防衛費の増額や憲法改正をするのが重要だ」

さらに、石破首相がメンバー国として挙げるインドも早速、否定的な見方を示した。

訪米中のインドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は1日、「そのような戦略的な構造は考えていない。われわれには異なる歴史があり、異なる取り組み方がある」と、アジア版NATO構想を支持しない考えを明確にした。

石破首相の論考では、日本、米国、オーストラリア、インドによる戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」の重要性を強調しており、アジア版NATOの下地になっているのだろう。

しかし、インド軍幹部は同国がクアッドに加わった理由についてこう説明する。

「クアッドはあくまで経済安全保障の緩やかな枠組みであり、ナレンドラ・モディ首相と安倍晋三首相との信頼関係があって実現した。わが国はどの同盟にも入らない『戦略的自律性』が外交政策の基本方針で、反中国の軍事同盟には強く反対する」

そもそも、石破首相もアジア版NATOの構想が固まっていないようだ。自著の中で「平和を維持するための仕組みなので、中国も参加してほしい」とも言及している。

中国の抑止を目的とした集団防衛なのか。それとも中国を巻き込んで互いに信頼関係を醸成する協調的安全保障なのか。基礎となる概念が整理されていないことがうかがえる。生煮えの構想が各国の不安と疑念を招いていると言わざるを得ない。

日本を取り巻く安全保障の状況は急速に悪化している。防衛相経験があり安全保障にも精通している石破首相には概念ではなく、日本の抑止力を含めた防衛力を高める具体的政策を打ち出してほしい。 (キヤノングローバル戦略研究所主任研究員・峯村健司)

この記事の関連ニュース