石破茂首相は南米を歴訪し、アジア太平洋経済協力会議(APEC)や、20カ国・地域(G20)首脳会議に出席したが、その「外交力」には疑問符が付いた。記念撮影への遅刻、座ったままの握手、腕を組んでの式典の観覧など外交儀礼を欠く振る舞いを繰り返した。肝心のトップ外交でも、中国の習近平国家主席との会談で『親中姿勢』を印象付けた一方、米国のドナルド・トランプ次期大統領とは早期面会できず、長島昭久首相補佐官(国家安全保障担当)が訪米し、トランプ陣営の安保担当の要人と会談へ調整するなど〝尻拭い〟に奔走する状況だ。「外交大失態」との批判もあり、政権浮揚どころか、政権の致命傷となりかねない。
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長島首相補佐官〝尻拭い〟訪米
「石破外交」が本格的に始動する見せ場となるはずのAPECとG20だが、出だしからつまずいた。
15日のAPEC首脳会議の会合前、各国首脳が行き来して談笑するなか、石破首相は席についたまま書類やスマートフォンをながめていた。カナダのジャスティン・トルドー首相ら各国首脳があいさつに訪れると座ったままで握手を交わした。こうした様子を映した動画がX(旧ツイッター)で拡散し、批判を招いた。
石破首相はペルー大統領官邸での式典では、腕を組んで観覧する様子もみられた。また、APEC首脳会議の締めくくりの集合写真の撮影にも渋滞で間に合わなかった。
前駐オーストラリア大使で外交評論家の山上信吾氏は「首脳がわざわざ新首相の元を訪れているのに座っているのは傲慢なことだ。外交儀礼では国力にかかわらず、新しいリーダーは『新参者』で、自らあいさつに回ってもいい立場だ。相手がどんな国でも対等な関係を築く日本外交の真骨頂を踏みにじっている。また、腕を組むのも欧米人の前でやってはいけないしぐさで、心を閉ざしているとのメッセージになりかねない」との見方を示す。
石破首相のアカウントがXで「コパカバーナの夜明けです」と海岸の写真を投稿したが、外遊をねぎらう応援コメントの一方、「日本の夜明けはいつですか?」など批判的なコメントも相次いだ。
15日の習主席との首脳会談では、習氏が右手を差し出したのに対し、石破首相は両手で握手に応じた。
山上氏は「初対面でも相手が右手を出せば、同じく右手を出してグッと力を入れ、相手の目を見ながら握手するのが定番だ。両手での握手はおもねっている印象に映る。米国や韓国、オーストラリアなど友好国にどう受け取られるか心配だ」とする。
首相は習氏との会談では、「戦略的互恵関係」の包括的推進などを確認した。中国の軍事活動活発化を「極めて憂慮している」と伝えた。
16日には韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と会談し、北朝鮮による核・ミサイル開発の加速や、ロシアとの軍事協力の進展に深刻な懸念を共有した。
18日には英国のキア・スターマー首相と会談し、外務・経済担当閣僚による協議枠組み「経済版2プラス2」の新設に合意した。
だが、日米外交については禍根を残した。トランプ氏との7日の電話会談も5分間だけだったが、南米からの帰途を念頭に調整していた対面会談も見送られた。
山上信吾氏「日本外交の真骨頂を踏みにじっている」
山上氏は「トランプ氏側は、衆院選で大敗した首相と会うのは労力のムダと考えているかもしれない。石破首相には『日米地位協定の見直し』や、『アジア版NATO(北大西洋条約機構)』などの持論を封印し、『自由で開かれたインド太平洋』、日米同盟強化、日米豪印4カ国による戦略的枠組み『QUAD(クアッド)』など、日本外交にこれまで敷かれたレールから外れない着実な仕事をしてもらうことに尽きる」と注文を付ける。
「党内野党」といわれることも多い石破首相は、よくも悪くも独自のスタイルを貫く向きがある。前例にとらわれない外交を打ち出しているのか。首相と親しい岩屋毅外相は「マイナスの評価を受けた1カ月の反省を踏まえて、石破カラーをしっかり出す政権運営を心がけてほしい」と激励した。
評論家の八幡和郎氏は「石破首相は政治家人生で『スタイルが変わらないこと』が魅力なのかもしれないが、首相が務まるかは別だ。石破首相は長年の友人を重用するなど『情』を重視する姿勢だが、外交は情だけでは乗り切れない。トランプ氏との関係でも、はなから『ノー』を突き付けそうな雰囲気を出している。安倍晋三元首相は最初はおだてつつ、『こういう話がある』と戦略的に取引した。石破首相では日米関係どころか、外交自体をうまく運べるのかも怪しい。自民党内の反主流派は『首脳外交に問題がある』と主張し、新たなリーダーを模索した方がいいのではないか」と指摘した。