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ドクター和のニッポン臨終図巻 ノンフィクション作家・佐々涼子さん 多くの死を見つめ辿り着いた境地に心から共感 享年56歳、死因は悪性脳腫瘍

zakzak by夕刊フジ 2024年9月9日 15時30分

僕が初めてこの人のお名前を知ったのは、『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)という本でした。在宅看取りの光と影を書いたノンフィクションです。

僕もその頃、『痛い在宅医』という本を出版しました。在宅医の立場から書いた拙著とはまた違い、本書は、多くの人に丁寧に取材をし、人生の最期の在り方を俯瞰(ふかん)的に問うた力作でした。

この本以外にも、東日本大震災後の石巻の製紙工場を取材した『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』(早川書房)や、米倉涼子さんの主演で話題となったドラマの原作『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)など問題作を世に出し続けたノンフィクション作家の佐々涼子さんが、9月1日に死去されました。享年56。死因は、悪性脳腫瘍との発表です。

佐々さんは2022年11月、激しい頭痛を覚え、病院で検査を受けたところ、悪性脳腫瘍の一つである「神経膠種」(別名グリオーマ)と診断されました。脳腫瘍は10万人あたり10~12人に発症、さらに神経膠種となると10万人に1人いわれる大変稀(まれ)な病気で、その原因はいまだ解明されていません。40~50代に多く発症することがわかっています。

脳や髄膜から発生した原発性のものと、肺がんや乳がんなどからの転移性のものとの大きく二つに分けられます。他のがんのようにステージ分類はせずに、悪性度を表すグレードで表現されます。基本的にグレード1であれば良性腫瘍、グレード2~4は悪性腫瘍と判断されます。良性腫瘍の場合は、ゆっくり増殖しますが、悪性腫瘍の場合は、増殖のスピードが非常に速いです。また、腫瘍ができた場所によって、その症状は多様です。佐々さんのように激しい頭痛を訴える人もいれば、めまい、嘔吐(おうと)、手足の感覚障害、呂律(ろれつ)が回らないなどの言語障害、記憶障害などが起こる場合もあります。

このような症状が続く場合は、すぐに脳神経外科などでMRI検査を受けてください。

佐々さんが昨年11月に出版されたエッセイ&ルポルタージュ集『夜明けを待つ』(集英社インターナショナル)を読みました。「あとがき」では、こんなことを書かれています。

「五五歳の私は、人よりだいぶ短い生涯の幕を、間もなく閉じることになる。(中略)取材をしていた時には、まだピンとこなかった。だが、その時わからなかったことも、今ならわかる。私たちは、その瞬間を生き、輝き、全力で愉しむのだ。そして満足をして帰っていく。(中略)だから、今日は私も次の約束をせず、こう言って別れることにしよう。『ああ、楽しかった』と」

多くの死を見つめてきた作家が最期に辿(たど)り着いた境地に、心からの共感を覚えました。

■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。公益財団法人日本尊厳死協会副理事長としてリビング・ウイルの啓発を行う。映画『痛くない死に方』『けったいな町医者』をはじめ出版や配信などさまざまなメディアで長年の町医者経験を活かした医療情報を発信する傍ら、ときどき音楽ライブも。

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