石破茂首相は1日放送のラジオ番組で、野党との大連立を示唆する発言をした。立憲民主党の野田佳彦代表と日本維新の会の前原誠司共同代表との関係に触れ「中道政治を目指し、相通じるものがある。長い友人で信頼でき、裏切られたことが一度もない」と語っている。6日の年頭記者会見では、大連立に関して「今の時点で考えているわけではない」と述べた。
石破首相は、昨年の臨時国会でも少数与党の悲哀を味わった。衆院では補正予算成立のために国民民主党と維新の協力が必要だった。ただし、国民民主党が主張する基礎控除などの「178万円」への引き上げについては、一応協議した形を取り、「123万円」で打ち止めにした。一方、維新を「教育無償化」の口約束で釣り上げた。
実は、こうした芸当ができたのは、相手が国民民主だけではなく、維新もいたからだ。しかし、裏では立憲民主との大連立構想もあったはずだ。そうでないと、仮に国民民主と維新が結託すれば、補正予算でも自民党は大幅な譲歩が必要だった。
新年になって、その背景が徐々に明らかになってきた。石破政権は、立憲民主、維新、国民民主を天秤(てんびん)にかけ、それぞれ分断する形で交渉し、2025年度予算を成立させようとしている。衆院選の獲得票数は立憲民主、維新、国民民主の順番であるので、立憲民主との大連立があれば、維新と国民民主は用済みになる。
こうした話の裏には仕掛け人がいるが、筆者は財務省だとにらんでいる。25年度予算を無傷で通したいので、財務省幹部が各党幹部に接触しているという情報もある。
交渉相手が2党でも難しいが、3党では結託できる可能性はさらに少ない。補正予算の成立過程や25年度予算のレクの過程で、「3党結託」の可能性が少ないこと、立憲民主との大連立(または維新との中連立)の可能性がある程度あるから、石破首相が「大連立の可能性」をぶち上げたのだろう。
連立には大義名分が必要だが、野田代表の立憲民主との大連立では「社会保障の見直し」ともいわれている。かつて野田氏が民主党政権で首相を務めた際、連立ではなかったが、自民党の谷垣禎一総裁らを巻き込んだ。5%だった消費税を8%、そして10%へと2度の増税を決めたことをほうふつさせる。
現在、自民の相手は「使い勝手佳彦さん」とも揶揄される野田氏が率いる立憲民主である。消費増税をもくろむ財務省としては千載一遇のチャンスだ。
だが、はじめは消費増税ではなく、成功体験になる例を持ち出すだろう。筆者が考えるに「選択的夫婦別姓」の導入がある。これを立憲民主から提起させて自民が賛成し、公明党、維新、国民民主も追随する。
そのお返しに、今度は立憲民主が25年度予算案に賛成し、社会保障の協議に入る。つまりホップで「選択的夫婦別姓」、ステップで「消費税率の12%への引き上げ」、ジャンプで「15%への引き上げ」だ。
「歴史は繰り返す」という。一度目は悲劇として、二度目は軽蔑すべき笑劇だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)