猟奇的な役からコメディーまで幅広い演技力で魅了する名脇役、升毅(69)が主演する映画「美晴に傘を」(渋谷悠監督)が24日に公開される。
北の小さな町を舞台にケンカ別れした息子・光雄を亡くした漁師の善次(升)、光雄の妻・透子(田中美里)、自閉症の孫・美晴(日高麻鈴)を中心にした「家族再生」の物語。交流する町の人々も丁寧に描き出し、普遍的なテーマを新鮮な作品へと昇華させている。
「脚本を読んだとき、すごくいいお話しだという実感があったけど、僕が主役という実感がなくて。いろんな所にスポットが当たっているので、それぞれの中に主役がいる作りだと思いました」
升は言葉少ない役にシンクロし、圧倒的な存在感を放っている。
「ケンカ別れした息子が、再会も果たせずに死んでしまった。それだけをシンプルに落とし込むようなイメージを作り、あとはそれに従って行動できたり、言葉にしたり、できなかったり…。そういうことを自分に落とし込んで表現しました」
渋谷監督は主宰する劇団牧羊犬や短編映画で数々の賞を受賞してきたが、長編映画は初挑戦。対する撮影監督の早坂伸と升は、故・佐々部清監督の「佐々部組」で一緒に学んだ盟友だ。
渋谷監督の発想をそのまま映像にするのは難しく、「長編が初めての監督の感性と、絵作りやこだわりなど早坂さんの経験値で、息を合わせながら作っていったので、お互いのいい所が出ている映画になったと思います」と升は太鼓判を押す。
脇を固める和田聰宏は升の息子光雄役で自閉症の娘に絵本を作る詩人、井上薫は漢字を教える書道家で、阿南健治はスケベな俳句を詠む飲み友達。
日高が演じる美晴は聴覚過敏で聴こえる音を擬音語に変えられる才能を持つなど、さまざまな形で表現される言葉が物語の核となり、耳や心へと染み入ってくる。
「特別じゃない町で特別じゃないことが起きているんだけど、それが見終わったときに、『なんか特別なものを感じたよね』って言っていただける映画だと思うので、その辺りを感じていただければうれしいです」
東京・恵比寿のYEBISU GARDEN CINEMA、大阪・Kino cinéma心斎橋などで順次全国公開。 (佐藤栄二)