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有本香の以読制毒 また巡りくる7・5ウイグル大虐殺「ウルムチ事件」から15年 弾圧で1万人が消えた夜…悔やまれ続ける安倍元首相の不在

zakzak by夕刊フジ 2024年7月2日 6時30分

7月5日がまた巡りくる。米国政府はじめ、多くの西側先進国の機関が「ジェノサイド(大虐殺)」と認定するほどすさまじい弾圧を、中国当局から受けているウイグル人にとって、忘れることできない日付である。

15年前、2009年のこの日、新疆ウイグル自治区(=ウイグル人にとっては東トルキスタン)の中心都市ウルムチで、若者らのデモを武力弾圧する「ウルムチ事件」が起きたのだ。亡命ウイグル人らは「7・5ウイグル大虐殺」と呼ぶ。

7・5ウイグル大虐殺

私は事件の1週間後に米ワシントンDCを訪れ、「ウイグルの母」と呼ばれる民族運動の指導者、ラビア・カーディル女史にインタビューをした。そこで聞いた戦慄の事実を複数のメディアに寄稿したのだが、その記事のタイトルは「ウイグル人1万人が消えた夜」というものだった。

日の高い時間から続いていた平和的なデモに、当局が介入したのは日没後。突然〝大停電〟が起き、街の灯、家々の灯が消えた闇の中で「虐殺」は起きたという。

「翌朝、ウイグル人の主に男、約1万人の行方が分からなくなっていた」とラビア・カーディル氏は語った。ウルムチの中心街でデモに参加した者、通行人だった者、無差別に姿を消したというのである。

この夜の状況は、現場から命からがら逃れ、他国の当局に保護されたウイグル人らが詳しく証言している。

おびただしい数の車両が集められ、多くの銃声が鳴り響いた後、まるで荷物を放り込むように人がトラックの荷台に詰め込まれ、どこかへ運び去られたという。その後、道路は洗われ、朝日が昇るころには、何事もなかったかのようにされたというのだ。

そんな凄惨(せいさん)な事件から15年。ウイグル人を巡る状況は悪化の一途をたどる。習近平政権下では強制収容所の数が増え、被収容者も格段に増えた。少なく見ても100万人、米CNN(日本語版)は21年11月10日、米防総省によるととして、「最大300万人に上る可能性がある」と報じた。

収容こそ免れても、一般のウイグル人家庭に、漢人の〝公務員〟が泊まり込んで監視するというような、常軌を逸した監視が日常的にされた。在日ウイグル人のほとんどの人が故郷の家族と音信不通状態に陥り、中には当局からの電話で「脅される」事案まで発生していた。

そんな状況から、ドナルド・トランプ米政権が20年、「中国当局がウイグル人に行っていることはジェノサイドだ」と認定したのである。

近年、米国の議会と政府は「ウイグル人権法」に加えて、ウイグル強制労働防止法などを矢継ぎ早に成立させ、施行させてきた。これらが中国への圧力として機能し、ウイグル弾圧が軽減されることが期待されたが、果たして現況はどうか。

「ウイグル人やその他のトルコ系民族は、10万人あたり3814人と推定される割合で投獄されており、これは中国全体の10万人あたり80人の割合の47倍である」

これは今年5月、米国の政府系メディア「ラジオ・フリー・アジア」が報じた惨状だ。

一方、最近、在日ウイグル人に聞いたところでは、中国当局はわずかばかりウイグル人へのパスポート発給を許し、日本への新たな留学生の送り出しなども再開しているという。

訪日を果たしたウイグル人の若者らにも自由はない。在日中国人のネットワークと連携した中国当局による〝監視〟があるからだ。

在米ウイグル人の友人がため息交じりにこう言った。

「日本にはウイグル問題への理解者は多いけれど、欧米に比べて政治的な取り組みは少しスローだね。プライムミニスター安倍が生きていたら…」

ウイグル問題に最も熱心な日本の政治家として、世界中のウイグル人が敬意を寄せる安倍晋三元首相の不在が、この件においても悔やまれ続ける。

その安倍氏の命日(7月8日)もまた巡ってくる。安倍氏なき今、日本人、ウイグル人、そして世界の行く手に暗さ増す日々である。

■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。

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