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岩田明子 さくらリポート 石破首相に問われる「信頼感」と「安定感」 政権担う苦難知り現実路線に〝変遷〟も さらに不安定な発言すれば国民の不信は決定的に

zakzak by夕刊フジ 2024年10月9日 6時30分

石破茂首相は9日、衆院解散に踏み切る。各党は次期衆院選(15日公示、27日投開票)に向けて本格的に動き始める。自民党が公認をめぐって打ち出した新たな方針に党内の不満が噴出するなか、初陣となる石破首相が問われるのは「信頼感」「安定感」ではないか。

就任後、石破首相の「変節」が指摘されている。自民党総裁選で訴えていた「日米地位協定の見直し」や「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」は所信表明演説では姿を消し、安倍晋三元首相が掲げていた「自由で開かれたインド太平洋」というキーワードが盛り込まれていた。

経済面では「財政規律派」で、日銀の利上げに肯定的だった。総裁選(9月27日)で勝利すると、日経平均株価の先物が暴落する「石破ショック」が起きた。

すると、首相就任翌日(2日)夜、日銀の植田和男総裁と会談後に、「個人的には、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と述べた。3日の株価は大幅反発した。

「変節」ではあるが、日本の国益や現実を考えると、石破首相は「現実路線」に転換せざるを得ないだろう。

米国との関係を考えると、日米地位協定の見直しは極めて難しく、アジア版NATOも現実味に乏しい。追加利上げに慎重対応を求めたと受け取られた発言も、マーケットでは歓迎されている。

石破首相は自民党で長く、「党内野党」的ポジションにいた。だからこそ好きなことが言え、それが「石破カラー」として一定の人気を集めていた。遠いところから権力批判をするのは簡単だ。だが、いざ権力の座に就くと、これまでとは異なる苦難がのしかかってくる。

安倍氏は首相を退陣後、よくこんなことを言っていた。

「総理大臣というのはなった瞬間から、すさまじい批判にさらされる。それはたった一人で受けなければいけない向かい風だ。いろんな人に相談したり、根回りしたりはするけれども、決断はたった一人でするものだ。非常に孤独な仕事で、それは経験した者にしか分からない」

石破首相は、自分が政権を担うようになって初めて、歴代首相の「苦しみ」や「責任」「重圧」の一部を知ったのではないか。

報道各社の世論調査での内閣支持率は50%前後と決して高い数字ではない。石破政権は「ハネムーンなき発進」を余儀なくされている。

伸び悩みの要因としては、「政治やカネ」の問題で国民が納得していないことや、総裁選の第1回投票で高市早苗前経済安保相がトップだったのに、決選投票では「永田町の論理」で石破首相が逆転勝利したことへの反発もあったと考えられる。

もう一つ、石破首相の経験値で「大丈夫なのか」という国民の不安もあったと思う。

次期衆院選は、自民党にとって厳しい戦いとなる。

自民党は6日、派閥裏金事件ですでに処分を受けた衆院議員の一部を「非公認」とし、政治資金収支報告書に不記載があった議員の比例重複を認めない方針を決めた。この決定を受けて、党内の分断はさらに深刻となった。

石破首相の「信頼感」「安定感」が党内外で問われている。今後、さらに不安定な発言をすれば、国民は「やはり首相向きではない」と思うだろう。衆院選は、石破首相の「宰相の器」を見極める機会になりそうだ。

■岩田明子(いわた・あきこ) ジャーナリスト・千葉大学客員教授、中京大学客員教授。千葉県出身。東大法学部を卒業後、1996年にNHKに入局。岡山放送局で事件担当。2000年から報道局政治部記者を経て解説主幹。永田町や霞が関、国際会議、首脳会談を20年以上取材。22年7月にNHKを早期退職し、テレビやラジオでニュース解説などを担当する。月刊誌などへの寄稿も多い。著書に『安倍晋三実録』(文芸春秋)。

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