男性不妊について考えている本連載。男性不妊の原因の80%が造精機能障害だが、その大部分は原因不明である。
しかしながら、薬物治療に関する有効性やエビデンスも徐々に明らかになりつつあり、今回発刊された「男性不妊症治療ガイドライン」では、複数の薬物治療に関しても言及されている。順天堂大学医学部附属順天堂医院「男性妊活外来」を担当する平松一平医師に内科的な治療について聞いた。
「注目されているのはクロミフェンです。生殖医療の保険適用化に伴い、男性も使用できるようになりました。精子形成に関連するホルモン分泌の低下が原因による造精機能障害が疑われる方に処方します。簡単に説明すると、自身のホルモン分泌を促し、精子形成に関連する細胞を刺激します。これにより精子の濃度や運動率が上がる方がいます」
使い方の一例を紹介してもらった。例えば体外受精を選択した場合、採卵日のタイミングに合わせ約2~3カ月前からクロミフェンを服用し始め、精子をベストな状態に保ってもらうという。こういった医療対応を有効に行うためにも、まずは専門医による検査で自身の状態を知ること。そして、ライフプランを考えて、日頃からか妊孕性(にんようせい=妊娠するための力。男女ともに重要)を意識した健康管理がアドバンテージになる。
必要な検査とは何か。
「まず血液検査で各種ホルモンをチェックし、精子力に関わるとされている亜鉛とビタミンD値も診て、不足していれば補充を提案します」
同時に、性感染症についても調べるそうだ。
「性感染症は無症候な場合が多く無自覚で放置すると、男女双方にとって不妊の原因になるリスクがあります」
そして、次の段階は。
「精巣の超音波検査で、精巣のサイズ、精索静脈瘤の有無などを調べます。当院では検査結果を総合的に判断し、治療方針を決めております」
近年、少子化対策で検査や治療への公的な補助制度が整いつつある。地方自治体によって条件に違いはあるが、こうしたことも、積極的に情報収集しておきたい。
「意識されていない方が多いと思いますが、ご自身の精液を1回は調べおくことをお勧めします。最近は、ご自宅で自分の精子の状態がわかる簡易キットがあるので活用して損はないと思います。もし精子濃度が低い、運動率が悪い、という結果であれば医療機関に足を運んでいただきたいです」
外来で専門医に相談すれば、アドバイスだけでも精液所見の改善が期待できるものなのだろうか。
「海外のデータでは、運動習慣プログラムを取り入れ精子所見が良くなったという報告もあります。性機能障害についても、さまざまな提案をさせていただきます。ただ、明確にこれをやったからこれだけ改善する、という単純なものではありません。精神的なものを含め複雑な要因が絡んでいます」
精子力アップにサプリメントや漢方薬は有効なのか。
「特発性の男性不妊症に対し抗酸化力を持つものは有効かもしれません。エビデンスが十分ではありませんが、コエンザイムQ10や漢方薬の補中益気湯(ほちゅうえっきとう)やビタミン剤は効果があると感じます」
なかなか一筋縄ではいかない妊活。挙児を目指すなら、女性側、男性側がそれぞれどんな治療をしているかの理解をパートナー同志で深め、お互いに協力することも欠かせない。 (取材・熊本美加) =あすにつづく
■平松一平(ひらまつ・いっぺい) 順天堂大学大学院医学研究科泌尿器科学講座助教。2013年順天堂大学卒業。日本生殖医学会が定める認定研修施設の一つである獨協医科大学埼玉医療センター・国際リプロダクションセンターでの研修を経て、現在、順天堂医院で男性妊活外来を担当する。生殖医療専門医、泌尿器科専門医・指導医、日本性機能学会専門医、内分泌代謝科(泌尿器科)専門医、日本排尿機能学会専門医、難病指定医。