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ウクライナ、ロシア西部クルスク州へ「越境攻撃」の目的 渡部悦和氏「米大統領選後の停戦交渉での交換条件狙いもあるのでは」

zakzak by夕刊フジ 2024年8月13日 15時1分

ウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナは12日、ロシア西部クルスク州への越境攻撃で約1000平方キロを制圧したことを明らかにした。東京都(2194平方キロ)の半分の広さに匹敵する。ロシア側は同日、クルスク州内の28集落が制圧され、住民の死者は12人、負傷者は121人に上ると述べた。2022年2月24日に始まったロシアによる侵略が長期化するなか、ウクライナは今月6日、大規模な越境攻撃に踏み切っていた。欧米メディアでは攻撃を疑問視する報道も出ているが、11月の米大統領選が関係している可能性もありそうだ。識者からは、ウクライナ支援に消極的で、ウクライナに不利な状況で「停戦交渉」に動き出す可能性があるドナルド・トランプ前大統領の返り咲きに備えているとの見方も出ている。

ゼレンスキー氏は11日の声明で、クルスク州への越境攻撃はロシアが受ける「報いだ」として正当性を主張した。その理由として、クルスク州と国境を接するウクライナ北東部スムイ州に今夏だけで、ロシア軍による約2000回の攻撃があったことを挙げた。

ウクライナによる今回の越境攻撃は22年の侵攻以降、ロシアが自国領で受けた最大級の軍事的打撃となる。クルスク州は、制圧された28集落に住む約2000人の住民の消息が分からないと説明。州内の12万1000人がすでに避難し、最終的な避難者は18万人に上ると述べた。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、越境攻撃の目的について「将来の交渉におけるウクライナの立場を向上させることだ」と述べ、敵を国境外に追い出すよう国防省に求めた。

さらにプーチン氏は、ウクライナ東部などで進軍するロシア軍を食い止めることや、ロシア国民をおびえさせて結束を破壊することにあることが目的にあるとし、「ウクライナ側がなぜ、対立の平和的解決に向けたわれわれの提案を拒否するのかが今や明らかになった」と主張した。

欧州メディアは11日、ウクライナの治安当局者が越境攻撃への参加兵力を数千人規模だと明らかにしたと伝えた。当局者は、越境は「敵の戦線を広げ、ロシアの状況を不安定化させるのが目的だ」とし、占領地の併合については否定した。

ロシアがウクライナへの侵略を始めてから900日が過ぎるなか、ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州の要衝の掌握を狙って、滑空爆弾やドローン(無人機)で攻撃を仕掛けて州全域の制圧などを狙う。同州ポクロフスクなどの要衝を狙って激しい攻勢をかけており、周辺集落の制圧を進めている。

これに対し、ウクライナ軍は要衝を重点的に防衛し、ロシア軍を消耗させ反撃に備えてきた。今月には西側諸国から届いた米国製戦闘機F16の第1陣が運用を開始しており、課題だった防空体制の強化が見え始めているが、これまでの劣勢を覆すまでには至っていない。

英BBC(日本語版)は8日、解説記事で「ウクライナが戦場で抱える最大の問題はマンパワーだ」として、「ウクライナ兵をロシアに送り込むこと自体、言ってみれば、状況にそぐわない動きだと見る向きもあるだろう」と指摘した。

ウクライナの越境攻撃の目的を専門家はどうみるか。

元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は「ロシア軍に主導権を握られた状況が数カ月も続くなか、一方的に攻撃をかけられるだけでなく、ロシア領内を戦場にすることで、ウクライナ国民、軍の士気を高める目的があったのではないか。ウクライナ軍は東部戦線で劣勢が続いてきた。2カ月間も越境攻撃の準備をしてきたというが、機会を狙って最もロシア軍が脆弱(ぜいじゃく)になっていたクルスク州に戦力を投入し、陽動作戦をとったのではないか」とみる。

米大統領選を見据えた動きとの可能性もある。トランプ氏が米大統領に返り咲いた場合、ロシアとウクライナ双方に交渉を促して、自身が掲げる「早期停戦実現」を図るとの観測が出ているからだ。

渡部氏は「トランプ氏だけでなく、民主党のカマラ・ハリス副大統領が当選した場合でも、停戦交渉がいつ始まってもおかしくない。クリミア半島が象徴的だが、ロシア軍に大部分を握られて現状では奪還が難しい。停戦交渉に持ち込まれた場合、少しでも有利に進めるためにどこかロシア領を『バーター』(交換条件)として持っておくという狙いもあるのではないか。ただ、ロシア領内での作戦行動を継続すれば損害をこうむる可能性があり、ウクライナ軍が今後、どのような選択肢をとるかが課題だ」と語った。

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