所得税が生じる「年収103万円の壁」をめぐり、自民、公明与党の抵抗が激化している。近く決定する来年度の与党税制改正大綱で、非課税枠を「123万円への引き上げ」にとどめる方向で最終調整に入った。国民民主党も含めた3党幹事長は「178万円を目指す」と合意したが大きく乖離(かいり)した。国民民主党の玉木雄一郎代表(役職停止)は「減税効果が極めて乏しい」と猛反発している。石破茂政権は、国民の「減税」への願いを軽視するのか。
「壁の引き上げ」では、自公与党と国民民主党が激しい駆け引きを繰り広げてきた。
石破首相率いる自民党と公明党は、衆院選で惨敗して少数与党に転落してから野党に〝秋波〟を送った。国民民主党には「壁の引き上げ」を交換条件に、補正予算賛成を取り付けた。自公国3党の幹事長は11日、「壁は178万円を目指し来年から引き上げる」と合意していた。
ところが、これに「待った」をかけたのが、大蔵官僚出身で「緊縮財政派のラスボス」と呼ばれる自民党の宮沢洋一税制調査会長だ。
3党税調会長協議で13日、自公は引き上げ額を「123万円」にとどめ上積みの提示にも頑として応じなかった。17日の協議でも自公が123万円からの上積みを示さなかったため、国民民主党の古川元久税調会長は「話にならない」と10分ほどで席を立った。
国民民主党が激怒するのは当然だ。衆院選で国民民主党が躍進した背景には、有権者の「減税」への期待があった。自公案はそれを踏みにじるものだからだ。
玉木氏18日のX(旧ツイッター)で、国民民主党の「178万円への引き上げ」と、宮沢案とされる「123万円への引き上げ」がもたらす減税効果を試算・比較した。
これによると、178万円に引き上げた場合、年収300万円で11万3000円、年収500万円で、13万2000円となる。
ところが、宮沢案の123万円の場合、年収300万でたった1万円(サラリーマン以外5000円)、年収500万で2万円(サラリーマン以外1万円)にしかならないという。
自民党議員は「宮沢氏は元大蔵官僚の『税のスペシャリスト』で、自民党幹部による非公式会合の『インナー』の中枢にいる。財務省からの影響が極めて強く、減税・負担軽減路線からは遠い存在とされる。国民民主党の主張は相いれないのだろう」と語る。
負担増に苦しむ庶民の声は聞こえない存在なのか。
玉木氏は18日、都内での講演で、「3党の幹事長間の合意が無視されるかたちで大綱が決定されるのは残念というか驚きだ。(来年度)予算の成立をどうするのか算段が見えない」と語ったうえで、自民党と日本維新の会の〝接近〟にも警戒感を示し、「ある程度、維新とも組める算段がついたということかもしれない」と指摘した。
自公の対応をどう見るか。
政治評論家の有馬晴海氏は「石破政権は『税収減の恐怖』に心を奪われる財務省に影響を受けすぎだ。世論は推移を厳しく見守っており、対応次第では来夏の参院選の大敗北にもつながる。自公が、国民感情を無視して政局に走れば取り返しのつかない事態を招くだろう」と語った。