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岩田明子 さくらリポート 自民総裁選「史上最大の乱戦」に 重み増す党員の地方票 世論調査で人気の石破氏・小泉氏・高市氏、有力3候補の〝強みと弱み〟

zakzak by夕刊フジ 2024年9月11日 6時30分

自民党総裁選(12日告示、27日投開票)に向け、出馬表明ラッシュが続いている。9日までに7人が正式に立候補を表明し、国会議員の推薦人制度が導入された1971年以降で過去最多の2008年と12年の5人を上回り、「史上最大の乱戦」となることが確実な情勢となった。

こうした総裁選では、党員による地方票(367票)の重みが増すことになる。各候補者には国会議員の推薦人20人がついており、国会議員票(367票)が分散されるためだ。すなわち、各種世論調査で上位の政治家で、派閥に依拠していないことが強みとなる石破茂元幹事長、小泉進次郎元環境相、高市早苗経済安保相を軸にした戦いとなっていくのではないか。

石破氏、地方の支持と金融所得課税

3人の中では最も早く立候補を表明した石破氏が力を入れる政策の1つが、「地方再生」だ。8月24日の記者会見でも、人口減少に伴う地方の衰退を踏まえて、「もう一度、地方に雇用と所得を」と訴えた。安倍晋三内閣では地方創生相を務め、地方行脚にも力を入れてきた。過去の総裁選では地方票を多く集めており、地方の支持が石破氏の強みとなるだろう。

一方で、今後痛手となりそうなのが金融所得課税の強化を「実行したい」と述べたことだ。石破氏の発言に対し、ほかの出馬予定者から批判が相次ぎ、岸田文雄政権が進める「貯蓄から投資へ」の取り組みに水を差すとの意見もある。中には「中間層の増税」につながりかねないとの声もあり、今後の論戦で攻撃材料となる恐れもある。

小泉氏、人気と華と解雇規制の緩和

先週6日に出馬表明した小泉氏は会見で、「聖域なき規制改革」を1年以内に断行すると強調した。父の純一郎元首相譲りの発信力と華やかさで高い人気を誇り、7日に東京・銀座で行った街頭演説には約5000人が集まったとされる。

総裁選の1つのポイントは、次期衆院選を見据えた「自民党の顔」選びで、選挙戦でその点が強調された場合、若さと人気を兼ね備えた小泉氏の勢いが増していくことになる。

小泉氏の政策で気になったのが、「解雇規制の緩和」だ。大企業限定で解雇の場合は再就職支援を課すという内容だが、解雇のハードルをさらに上げるのではないかという懸念や、逆に労働者の身分を脅かすのではないかという心配の声もある。誤解を与えかねない表現で、選挙の争点の1つとして整合性などが問われることになるだろう。

高市氏、政策能力と支持基盤の弱さ

9日に記者会見した高市氏は、国の究極の使命が国民の生命や財産、国家の主権と名誉などを守り抜くことだとして「総合的な国力の強化」実現を掲げた。高市氏は総務相時代、官僚のレクを受けずに自力で国会答弁したことが語り草となっているほどで、政策能力とディベート力は突出している。告示後に公開討論会が行われているなかで、高市氏の存在感が高まっていく可能性がある。

一般の保守層にも高い人気を誇る高市氏だが、党内の支持基盤の弱さが課題だ。今後、国会議員票をどこまで伸ばしていけるかがポイントとなってくる。

総裁選は事実上、次期首相を決める戦いとなる。経済成長のあり方や、防衛費増額・少子化対策の財源、社会保障のビジョン、不安定さを増す情勢の中での外交・安全保障など多岐なテーマに加え、「世界における日本」をどうイメージしているのかという国家観を、自民党員だけでなく、国民に示す機会にしなければならない。明日の日本のため充実した論戦を期待したい。

■岩田明子(いわた・あきこ) ジャーナリスト・千葉大学客員教授、中京大学客員教授。千葉県出身。東大法学部を卒業後、1996年にNHKに入局。岡山放送局で事件担当。2000年から報道局政治部記者を経て解説主幹。永田町や霞が関、国際会議、首脳会談を20年以上取材。22年7月にNHKを早期退職し、テレビやラジオでニュース解説などを担当する。月刊誌などへの寄稿も多い。著書に『安倍晋三実録』(文芸春秋)。

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