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花田紀凱 天下の暴論プラス 買うべきか、買わざるべきか…心動く「本居宣長の木製栞」 「古書目録」を眺める楽しさ

zakzak by夕刊フジ 2024年6月20日 15時30分

「古書目録」を眺めるのが好きだ。

あちこちの古書会が、今も目録を送ってくださるのは、有難く、嬉しい。疲れて帰宅しても、ついついチェックしてしまう。

今はネットでも「日本の古本屋」などがあり、検索して探せば便利だし、写真も掲載されているから、本や雑誌の状態もわかる。

けれど、目録を1ページ1ページめくっていく楽しさはない。

一昨日届いたのは「新興古書大即売展略目」。6月21、22日に東京古書会館で開かれる会の目録だ。

成増のフロイス堂、目黒の九蓬書店、早稲田の五十嵐書店など9店が加盟。B5判126ページの立派な目録だ。

だいたいが、江戸時代から明治へかけての書画が中心のこの会だが、短冊や書簡、書幅など眺めているのも楽しい。浮世絵など、カラーでないのは残念だが、これはコストの関係でしかたあるまい。

今回、眺めていて気になったのは九蓬書店さんが出している「永井荷風草稿」。

一枚の紙に毛筆19行。「風流小道具所開店披露口上」で、22万円。

フロイス堂さんが出している「本居宣長 和歌 木製栞」。

「分見はや しをりも花のよしの山 なほおく深く にほふこすゑを」

宣長自筆の和歌が木製の栞に書いてあるのだ。

江戸中後期作で、「津藩士駒田家旧蔵」と注がある。10万円。

これはちょっと心が動いた。

今、少しずつ平川祐弘さんの全集を読んでいるのだが、読みかけの途中にこの栞を置いたら、気持ちがいいだろう。

「なほおく深く」理解できるかもしれない。

あと、浅倉屋書店さんの「尾崎一雄書簡」便せん7枚。

宛先が目に飛び込んできた。

なんと、山崎剛平氏宛なのだ。

早稲田国文科卒で尾崎さんの盟友。一緒に同人誌を出し、後には「砂子屋書房」という小さな出版社をつくって、尾崎さんの『暢気眼鏡』、太宰治の第一小説集『晩年』などを出版した。

尾崎さんのエッセイにもよく登場する。

値段は3万8500円

熱烈、尾崎ファンのぼくとしてはやはり入手したい。

文行堂さんの勝海舟や山岡鉄舟の書も気になるし、時間が経(た)つのも忘れてしまう。

終活(嫌な言葉ですね)のためもあって、既に本を処分しつつあるところだから、買ってはいけないのだが、迷いに迷う。

前にも書いたが、かつて古書目録を見て購入したぼくの持っているベスト2。

①岩波写真文庫全巻揃い。

九曜書房さんから買ったのだが、9万1200円。

昭和20年代に、かの名取洋之助さんが編集した小型(B6判)の写真叢書で、全286巻。これが、全巻揃っているのだ。

これは貴重だ。

実は目録では1冊欠けていた。

が、送ってきたのは全巻揃い。

添えられた手紙に「欠けた1冊が見つかったので」とあった。

全巻揃いなら、もっと高い値段が付けられたろうに、目録そのままの値段の請求書。

これには感動した。

特別のファイル48冊に数冊ずつ納められた小さな写真集を、時折、取り出して眺めている。

当時のことだからB6判にたくさん写真が入っていて、一点一点の写真は小さいのだけれど、そこにまた味がある。

②サマセット・モームのグレアム・グリーン宛書簡4通。

ホテルの便せん、中味は本の御礼などでたいしたことは書いていないのだが、なにしろ、モームからグレアム・グリーン宛ですからね。

店舗を持たず、目録だけでやっていた横浜の創古堂さんから購入。値段は正確には覚えていないのだが、たしか9万円ほどだった――。

「本居宣長の木製栞」、買うべきか、買わざるべきか、まだ、迷っている。

(月刊『Hanada』編集長 花田紀凱)

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