ドナルド・トランプ次期米大統領が異例の人事を連発している。国防長官に元軍人で保守系のFOXニュース司会者、ピート・ヘグセス氏(44)を抜擢(ばってき)した。また政府業務の効率化を担う新設組織は実業家のイーロン・マスク氏(53)らが率いる見通しとなった。共和党は大統領職と上下両院を独占する「トリプルレッド」を達成したが、次期政権は円滑に進むのか。
トランプ氏は13日、ホワイトハウスを訪れ、ジョー・バイデン大統領と会談した。バイデン氏はトランプ氏を「おかえりなさい」と迎え、「円滑な政権移行を楽しみしている。必要なものを準備するためできる限りのことをしたい」と述べた。トランプ氏は「政治は厳しい状況だ」と語りながらも「スムーズな移行になるだろう」と応じた。
だが、人事ではトランプ色が鮮明だ。トランプ氏は国防長官に起用するヘグセス氏を「戦士として人生を軍にささげてきた」と評価した。
ヘグセス氏は中西部ミネソタ州出身で、元陸軍の州兵として勲章を受章した。戦争犯罪で告発された米兵を擁護し、トランプ氏に働きかけて恩赦を勝ち取った経験もある。FOXニュースの番組司会者としてトランプ氏への熱烈な支持を示してきた。
国防長官は、軍の司令官経験者や国防総省出身者、連邦議員が就くことが多かった。米議会内からは、行政経験もなく、同盟国の防衛関係者とも面識がないヘグセス氏の起用を懸念する見方もある。
宇宙開発を手がけるスペースXや、電気自動車(EV)大手テスラを率いるマスク氏の人事も注目されていた。新組織担当への起用が発表された12日には、X(旧ツイッター)に「重要な何かを削減した、もしくは無駄なものを削減していないと思ったら、いつでも知らせてほしい」と呼びかけ、税金の無駄遣いを公表する考えを示した。だが、政府の規制が事業に影響する企業を率いており、利益相反を懸念する声もある。
潮匡人氏「米軍の規律や士気に禍根を残すことも懸念」
評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「ヘグセス氏は州兵出身で連邦軍全体の課題にも疎いとみられ、第1次政権の幹部と見劣りは否めない。今後、マスク氏が進める効率化の一環として公務員の解雇がトランプ氏の判断で可能になった場合、そこに軍人も含まれれば、米軍の規律や士気に禍根を残すことも懸念される。ウクライナの停戦に向けたリソースが割かれることを考えれば、台湾有事の際に軍のパワーがどこまであるのか疑問だ。火の粉が降りかかる日本も注視すべき人事ではないか」と指摘した。