石破茂首相は14日夕、ペルー、ブラジル歴訪のため、政府専用機で羽田空港を出発した。APEC(アジア太平洋経済協力会議)、G20(20カ国・地域)の両首脳会議に出席し、各国首脳との個別会談も行う。ただ、最大の焦点は、経由地の米国でドナルド・トランプ次期大統領との会談が実現するかどうかだ。石破首相は、トランプ氏の盟友である安倍晋三元首相を批判し続けてきた「政敵」であり、石破政権は「親中」傾向が強いとされる。一方、トランプ次期政権の閣僚に指名された面々は「対中強硬派」が並んでいる。朝日新聞は15日朝刊1面で「トランプ氏面会『実現が困難な情勢に』」と報じた。石破首相は、日米同盟を維持できるのか。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、リスク満載の「石破外遊」を考察した。
石破首相は南米訪問に合わせて、中国の習近平総書記(国家主席)や、ジョー・バイデン米大統領と個別に会談する予定だ。帰途には米国に立ち寄って、トランプ次期大統領との会談も調整している。初の首脳会談に臨む石破首相に成算はあるのか。
一連の会談で最大の焦点は、「トランプ氏との会談にこぎつけられるかどうか」だ。
もしも、トランプ氏が日程などを理由に「会わない」となったら、大変だ。正式な大統領就任前とはいえ、アジア太平洋で最重要な同盟国との首脳会談を拒否したとなれば、「オマエは信頼できない」と通告されたも同然になる。
そうなれば、衆院で過半数を割り、政権維持が困難になっている石破政権にとっては「最後の一撃」になるかもしれない。「米国に見限られた石破」という評価になって、国内の「石破おろし」も俄然(がぜん)、息を吹き返すだろう。
会った場合でも、盤石な「トランプ・石破関係」を構築するのは難しい。
理由は4つある。
まず、石破首相には外交経験がほとんどない。次に、トランプ氏は、石破首相が自分の盟友だった安倍氏の「政敵」だったことを理解している。それを知らないほど、間抜けなトランプ陣営ではない。
石破首相の掲げた政策自体もトンチンカンだった。
「アジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設」も、「日米地位協定の改定」も、実現しようと思えば、日本の憲法改正が不可欠になる。トランプ氏は2019年時点で「日米安保条約の片務性」に不満を漏らしていた。
石破首相は、とてもそんな話を持ち出せないだろう。口にした瞬間に「憲法改正はどうした。日本は米国を守れるのか」と反論されるに決まっているからだ。
そして最後に、トランプ氏は「強い指導者」しか相手にしない。
安倍氏しかり、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領しかりである。衆院選で大敗北を喫したばかりの石破首相では、最初から話にならないのだ。
「日米関係にくさびを打ち込む」習氏にとって石破首相は絶好の相手
バイデン大統領との会談も、石破首相にはリスクになる。
トランプ氏から見れば、バイデン政権と歩調をそろえた岸田文雄前首相の支援を受けて、総理・総裁に就いた石破首相は、「どうせ、オマエは岸田の子分だろ」くらいにしか見えないからだ。
バイデン氏との日米首脳会談が盛り上がれば盛り上がるほど、トランプ氏からみると「冷水をあびせかける」対象になってしまう。
習氏との会談はどうか。
こちらも、危険だ。
というのは、習氏から見ると「トランプの信頼を得られない石破」とは、日米関係にくさびを打ち込む絶好の相手になるからだ。
石破首相は、前政権からの既定方針である「戦略的互恵関係」の維持を訴えるはずだ。中国は「互恵」の部分に飛びついて、一層の日中友好を唱えるのではないか。米国主導の「対中包囲網」を突き崩すために、日本を突破口として利用するのだ。
石破首相が、この術中にはまらないかどうか。もともと「親中派」とみられている石破首相では、はなはだ心もとない。
私は、習氏との会談で手足を絡み取られ、バイデン氏との会談で一層の貢献を約束させられ、最後のトランプ氏に強烈な肘鉄(ひじてつ)を食らわされる。そんな展開を予想する。
長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。