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桜林美佐 国防最前線 惜しまれる「在日米陸軍の軍楽隊」の撤退 日本人が米軍人と触れ合える機会の1つ 防衛力強化に伴う歯がゆいリストラ

zakzak by夕刊フジ 2024年7月22日 6時30分

自衛隊は今年度中に陸海空自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を創設する。これに伴い、在日米軍も司令部機能を強化すると言われている。日米連携の必要性が高まっている厳しい安全保障環境であることが分かる。

そうしたなか、在日米陸軍の軍楽隊がこの夏を最後に日本を去ることになった。1955年から神奈川県のキャンプ座間に拠点を置き活動を続け、全国各地の行事でも地域の人々との絆をつくっていただけに惜しまれる。

緊迫する情勢のなか、宇宙・サイバーなどの新領域への対処も必要となっており、組織再編は急務となっている。軍楽隊の撤退はその一環と考えられるが、彼らがメインゲストとして毎年恒例になっていたイベントも少なからずある。

各所での「お別れコンサート」では、はっきりとした撤退の理由が明白になっていないことから、「なぜ今いなくなってしまうのか?」という思いは払拭されていない。「日米連携強化」と言われる中だけになおさらだが、防衛力強化に伴うリストラだと考えると歯がゆいところだ。

これまで数々の災害被災地での演奏も実施し、昨年が最後となった自衛隊音楽まつりでも存在感は絶大だった。日本人にとっては見慣れない制服姿の米軍人と触れ合える数少ない機会の1つであっただけに、彼らの役割は実際ひときわ大きかったと思う。

軍楽隊はこうした交流活動を大切にする一方で、本来の役割も大事にしている。それは軍の仲間意識の醸成と言ったらいいだろうか。同隊長のマシュー・デイヴィッド上級准尉の話を聞いて改めてその点に気付かされた。

デイヴィッド隊長は4回のイラク派遣を経験している。指揮官の交代や誰かの誕生日などに演奏する以外にも、何かお祝いをしたいとなれば食堂で頼まれて演奏することもあったという。危険なことも多々あったが、繰り返し同地に赴いたのは、「仲間を力付けたい」という思いだった。

「悲しい曲は演奏しません」

兵士の故郷を思い出せる曲が、彼らの何よりの癒やしとなった。後半の派遣ではイラク兵やその家族にも演奏した。音楽が架ける橋は無限だった。

軍楽隊員は皆、自身を語る際にソルジャーと表現し、言葉の端々に軍人としての矜持(きょうじ)を感じさせる。それゆえ日常は身体トレーニングに費やす時間が多いのも特徴だ。

在日米陸軍軍楽隊不在の影響は計り知れず、何らかの形での復活を待ち望みたい。 (防衛問題研究家 桜林美佐)=おわり

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