この映画のことをようやく書くことができる。それは「カラスの羽を繕う女」というタイトルの、世界中の映画祭で「最優秀作品賞」「最優秀監督賞」「最優秀主演男優賞」「最優秀主演女優賞」などをなんと30以上も受賞している作品だ。
監督&主演は、つかこうへいの舞台で名を馳せ、アクション俳優(かつてはスタントマン)として、日本エンタメ界の第一線で活躍し続けてきた春田純一。そして、プロデューサー&主演を務めるのが大下順子。この2人についてはこのコラムで何度か書いたが「春匠(はるたくみ)」という演劇ユニットとして活動している。
二人が撮影開始から8年かけて完成させた「カラスの羽を繕う女」は(僕が聞くところでは)セリフを極力カットしたゆえに、春田いわく「この映画は客を呼べないとか、説明がないからわからないとか言われたけど、あえて台本ナシ、現場でシーンを考えて撮るドキュメンタリータッチで撮りたかった」とのこと。だからこそ、国境を越えて多くの人類の心に訴えかけたのだろう。
アカデミー賞作品賞を受賞した「ノマドランド」や、カンヌ映画祭で熱狂で迎えられた「Perfect Days」のように、余計なものを取っ払った映像作品なのだそうだ。ちなみに「春田が撮るなら出るよ」と出演を快諾した津川雅彦さんの最後の映画でもある。
お二人から撮影時の話を聞かせていただいた僕が一番ショックを受け、早く見たいと思っているシーンのエピソードをひとつだけ書いておきたい(決してネタバレにはならないだろう)。
大下「ある交通事故のシーンを撮るときに、春田さんが『ハネてくれ』って言うんですよ」
春田「リアルにいきたいからね」
大下「いやいや、運転するのは私で『ハネて』って…そんなことできますか?!」
僕は唖然(あぜん)とした。春田はスタントマンでアクション俳優とはいえ、「ハネて」って、そんなのある?
実際の現場で何が行われ、どうなったのかは誰も知らないけれど、そんな命知らずのカットが積み重なって完成した本作を〝おまけ〟で観ることができる、イベントが開催される。
「春田映画試写会祭」(12月7日、東京・新宿「ロフトプラスワン」)がそれで、柴原孝典(元JACでスーツアクター)と植村喜八郎(戦隊ヒーロー、グリーンフラッシュ)を迎え、撮影時の秘話を語ってもらうとのことだ。あくまでも映画はおまけだが駆けつける値打ちのあるイベントだ。超オススメです。
■東野ひろあき(ひがしの・ひろあき) 1959年大阪生まれ、東京在住。テレビ・ラジオの企画・構成(FM大阪「森高千里ララサンシャインレディオ」)、舞台脚本(「12人のおかしな大阪人」)やコンサート演出(松平健とコロッケ「エンタメ魂」)、ライブ企画・構成(「小室等de音楽祭」)、コメディ研究(著書『モンティ・パイソン関西風味』など)。猫とボブ・ディランをこよなく愛するノマド。