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BOOK R-1史上初のアマチュアファイナリスト、どくさいスイッチ企画さんがひたむきに綴った60編『殺す時間を殺すための時間』

zakzak by夕刊フジ 2025年1月18日 10時0分

「R―1グランプリ2024」で史上初のアマチュアファイナリストとなり、お笑い界にどよめきを巻き起こした「どくさいスイッチ企画」さん。孤高の芸人として舞台に立つ傍ら、ウェブ小説サイト「カクヨム」でショートショートをひたむきに綴った60編がこのたび書籍化された。

――ショートショートを書き始めたきっかけは

「大学生の頃、日記を書いて見せ合うサイト『ミクシィ』で書いたのが最初。星新一さんや筒井康隆さんが好きだったこともあって短い小噺のようなものを書き始めました。週に1本、5日連続で書いていたこともありましたが、社会人になってからは月に1本、年に1本とペースは落ちるも書くことは辞めませんでした。出来栄え? いつも60点ぐらい。100点の作品ができていれば、そこで終わり、となっていたかもしれません」

――60編が本作に収められました

「400編ほど載せた『ミクシィ』からウェブ小説サイト『カクヨム』に書く場を移し、投稿してもお声はかからずの状態。でも今春の『R―1グランプリ』決勝に出た2日後に編集者さんから書籍化の話をいただいてびっくりです。『カクヨム』の140編から厳選、書き下ろしを入れて書籍化となりました。『カクヨム』のときのタイトル『time to kill=つぶす ための時間』をもじり『たいむとぅーきる』、『時間はいつでも、いくらでも殺していいんだ』という〝感動〟から、このタイトルにしました」

――名前もキテレツ

「大学在学中は落研で銀杏亭魚折(いちょうてい・うぉーりー)。一人でコント公演することになり劇団名のような名前が欲しいと思ったとき、『ドラえもん』のひみつ道具『どくさいスイッチ』に企画を付けこの名前に。『カクヨム』では、佐賀砂有信(さがすな・ありのぶ)でしたが、ほかにも落語をつくるときは本名の青山知弘。林家つる子師匠に『スライダー課長』や『ビター教室』などの創作落語を提供しています。名前とともに頭の中も切り替え〝4つの名前を持つ男〟として生きとります」

――構想は

「気になったことや新しいことばをテーマに書くことが多く、設定を思いつくとまずコントのネタにしようと考え、一人で表現できないなら次は落語に。噺の尺が足りないならショートショートにするという感じでフレシキブルにやっています。明るいネタよりも暗くて嫌な話が多いかもしれませんね」

――一読後、不思議な感覚に襲われます

「面白い話や怖い話がずっと書き続けられたら専業になればいい。でも私はジャンルに特化するとすぐに枯渇しちゃうタイプ。この人は同じような話しか書けないと思われるのは嫌ですから、オチの部分は、自分自身が飽きないようにふわ~っとした雰囲気を出す工夫をしています」

――作品に対してのこだわりはありますか

「話の展開に無理がないようにと考えています。読者が『そうはならないだろう』と離れていくことがないよう意識しています」

――お気に入りの作品は

「書き下ろしの『ギャルの遺言』。タイトルは編集者さんの発案で、落語の『三題噺』のように、タイトルを題材にストーリーを生み出しました。ちょうどアイデアが浮かんでこない頃で、編集者さんから背中を押してもらった作品。また、お笑い芸人の話『だいさくせんズについて』、創作落語の『惚れ薬』も思い入れがありますね」

――現在、芸人と作家との二足のわらじ生活

「これまでいくつかの分岐点がありましたが、会社を辞めて拠点を東京に移し、やりたかったお笑いをメインにして半年以上が過ぎました。本を出すという人生の目標も達成できましたし。これからは、自分が売れてその効果で本も売れるとか、この本が売れて、どくさいスイッチ企画は誰だという形で本に引っ張ってもらって、いずれは長編小説に向けて短編のストーリーを積み重ねていきたいですね」

■17歳の少年が〝殺し〟を胸に誓い準備を進める「こじらせた殺意」はちょっと切なく、インディーズ芸人の世界をほのぼのと描く「だいさくせんズについて」は優しくあたたかい。落語の世界から飛び出してきたような死神が、余命を決めるロウソクをなくしてしまう「いのちの炎」など、バラエティーに富んだ奇妙な味の超短編集。作品ごとに変わるブックデザインもお見逃しなく。

KADOKAWA・1650円(税込み)

■どくさいスイッチ企画(どくさいすいっちきかく) 1987年、神奈川県生まれ。37歳。お笑い芸人。大阪大学在学中は落語研究会に所属。2010年「全日本学生落語選手権・策伝大賞」受賞。卒業後は会社員と並行しながら創作落語とひとりコントを中心に活動。13年の「社会人落語日本一決定戦」、「全日本アマチュア芸人No.1決定戦2023」で優勝。24年「R―1グランプリ」の決勝に進出し4位。現在は、お笑いができる会社員からコントができる作家として活躍中。

取材・高山和久

撮影・酒巻俊介

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