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山上信吾 日本外交の劣化 石破外交の致命的〝欠陥〟に迫る 噴飯ものアジア版NATO、大統領稼業「バージョン2」となったトランプ氏と「信頼関係構築は無理」

zakzak by夕刊フジ 2024年11月12日 11時0分

衆院選を受けた特別国会は11日召集され、石破茂首相(自民党総裁)が第103代首相に選出されるが、その外交力には懸念が指摘されている。石破首相は先週、米大統領選で圧勝したドナルド・トランプ次期大統領と電話会談したが、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領(12分間)の半分にも満たない、たった5分間だった。日米の外交専門家をあきれさせた「アジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設」を持論にし、トランプ氏の盟友だった安倍晋三元首相を批判し続けてきたことが伝わっている可能性がある。日本を取り巻く安全保障環境が悪化するなか、同盟国のリーダーと信頼関係を築けるのか。前駐オーストラリア日本大使で外交評論家の山上信吾氏が「石破外交の致命的欠陥」に迫った。

岸田文雄前首相と石破首相。共通項は何か? 首相の座へのあくなき「執着心」と「鈍感力」と見た。

政権発足前から、石破首相の外交・安全保障政策の展開を興味深く観察してきた。

自民党総裁選での目玉は、「アジア版NATOの創設」と「日米地位協定の見直し・改定」だった。国内外の強い反発を受けて、総裁や首相に就任して政権を発足させてからは意図的に封印してきたようだ。当然だろう。

アジア版NATOなど、国際関係論を学びつつある大学1年生でも「無理筋」と分かる話だ。石破首相が参加国に想定しているとみられるアジア各国に「共通の目的」「脅威認識」「行動」がない限り、絵に描いた餅だからだ。

北米と違い、アジアには「民主主義」「人権尊重」「法の支配」といった基本的価値さえ、完全に共有されていない現状がある。中国を脅威とみなすことには、東南アジア諸国はもちろん、オーストラリアのような国でも異論を提起する向きが絶えない。

ましてや、憲法の制約上、フルスペックの集団的自衛権を行使できない日本が、アジア版NATOのような集団的自衛権発動の枠組みを提案するなど、他の国から見れば噴飯ものだ。

「中国に侵略されるフィリピン、北朝鮮に侵略される韓国を、日本は自衛隊を動員して助けるんですね?」

こう念押しされた場合、石破首相は何と答えるのか?

日米地位協定こそが、日米間の「不平等な関係」の象徴として、改定を声高に唱える点で日本の左翼と右翼の間には共通項がある。

だが、公務外で重大犯罪を引き起こした米兵を、起訴前に日本の警察当局に身柄を引き渡すなど、日米間で「運用の改善」を重ねてきた実態を一顧だにせず、「見直し・改定」にこだわるのは、木を見て森を見ずではないか?

真の片務性は、東京が攻撃されたら米軍が救援に駆け付けることを当然視している日本が、ニューヨークがミサイルで攻撃されたとしても、「憲法上の制約によって救援に行けません」と言い放つような状況を放置してきたことにある。なぜ、そこを手当てしないのか?

トランプ氏が来年1月、ホワイトハウスに戻ってくる。

初めての大統領稼業に緊張し、ワシントンでの立ち居振る舞いにも慣れていなかった1期目のトランプ氏ではもはやない。ぎこちない笑みを浮かべても、白目をむいても、やりおおせる相手ではない。

安倍首相(当時)の見解を聞きたがった1期目のトランプ氏とは違い、経験値を積み、自信を増幅させた「バージョン2」なのだ。

知的ウイットや愛嬌(あいきょう)とは無縁の石破首相がどんなにあがいたところで、トランプ氏との信頼関係構築は無理だろう。

であれば、その下の閣僚、次官、局長レベルで、米国との意思疎通、連携を重層的に確保していく他あるまい。

「トランプ・石破時代」。日米関係の真価が問われるときが来た。

山上信吾(やまがみ・しんご) 外交評論家。1961年、東京都生まれ。東大法学部卒業後、84年に外務省入省。北米二課長、条約課長、在英日本大使館公使。国際法局審議官、総合外交政策局審議官、国際情報統括官、経済局長、駐オーストラリア大使などを歴任し、2023年末に退官。現在はTMI総合法律事務所特別顧問などを務めつつ、外交評論活動を展開中。著書に『南半球便り』(文藝春秋企画出版)、『中国「戦狼外交」と闘う』(文春新書)、『日本外交の劣化 再生への道』(文藝春秋)。

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