パリ五輪が7月26日から8月11日の日程で開催される。いろいろな楽しみ方があるが、なんと言っても日本がどれだけ金メダルを取るのかが興味深い。
五輪の成績と国の経済力の関係については、米国で経済学の定番の教科書になっているグレゴリー・マンキュー氏の『マンキュー入門経済学』に次の面白い記述がある。
「世界クラスの選手を生み出す一国の能力を測る最善の尺度がGDP(国内総生産)の総額であることを発見した。GDPの総額が大きいことは、それが1人当たりGDPの高さによるものであれ、人口の多さによるものであれ、より多くのメダルをもたらす」「GDPに加えて、他の2つの要因もメダルの獲得数に影響を及ぼす。開催国は、通常、メダルを多めに獲得する。それは彼らが地元で闘うことから得る有利さを反映している。さらに、東欧の旧共産諸国は、GDPが同じくらいの他の国々よりも多くのメダルを獲得した」
つまり、何が金メダル獲得数を決めるのかというと、その国のGDP総額でほぼ決まり、それに加えて、開催国かどうか、旧共産圏かどうかで、だいたい決まるというのだ。
これを数値的に確認しておこう。2000年代における5回の五輪(00年シドニー、04年アテネ、08年北京、12年ロンドン、16年リオデジャネイロ)で金メダルを獲得した国について、金メダル獲得数とGDP総額、開催国かどうか、旧共産圏かどうかで回帰分析を行ってみる。すると、金メダル獲得数とこれらの(重)相関は0・88(1に近づくほど正の相関がある)となり、メダル獲得数は、GDP総額、開催国かどうか、旧共産圏かどうかでほぼ決まるといってもいい。
具体的には、1大会で金メダル1個に必要なGDPは3000億ドル、開催国だと金メダル7個増、旧共産圏は3個増だ。
これを前回の東京五輪に当てはめ、さらにコロナ禍で調整しやすい地の利などを考慮すると、日本は26個と推計できた。米国、中国もこのモデルで推計すると、それぞれ37個、42個と推計できたので、筆者はSNSに投稿した。実際の獲得数は日本27個、米国39個、中国38個で、まずまずの結果だった。
今回、このGDPモデルに欧州の地の利を考慮して試算すると、米国41~46個、中国39~44個、日本10~15個、フランス19~29個となる。幅があるのは、欧州の地の利を読むのが難しいからだ。
ちなみに、スポーツデータの分析や提供を行う専門会社、グレースノート(本社・米国)が6月26日に発表したパリ五輪のメダル予測では、日本は金メダル12個としている。
日本選手団はパリ五輪の目標を金メダル20個に定めた。
当然ながら五輪はメダルがすべてではない。しかし、参加する選手は苦しい練習に耐えて頑張っている。政府はGDPをもっと増やすことに努力し、その結果、強化費を増額するのが参加する選手に報いる方法だ。「五輪のメダルもカネ次第」というのは、選手の活躍で感動しているのにちょっと無粋な結論であるが、ご容赦願いたい。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)