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日本名優列伝 中尾彬という俳優 芸術的だった金田一ブームの先駆け的作品、33歳で金田一耕助役に抜擢された中尾彬 「本陣殺人事件」(1975年)

zakzak by夕刊フジ 2024年7月24日 11時0分

オシドリ夫婦といわれた池波志乃との出会いも一風変わっていた。ふたりで「徹子の部屋」(テレビ朝日系)に出演したとき、初デートの様子を明かしている。

中尾は幻の酒を手に入れたので、池波に「こんな酒知ってる?」と聞いたら「毎晩飲んでるわよ」とかわされた。

「幻の酒を毎晩飲めるなんてどうして」と聞くと「知り合いの芸者さんの店でいつも手に入るの」という。中尾はその店の地図を描いてもらったが見つからず、改めて池波に連れて行ってもらうことに。

そのとき中尾は彼女がひっつめ髪に大島を着て鉄さび色の帯で来ると想像していたら、まさにドンピシャだった。それを見て中尾は「一緒になってもいいんじゃないか」と思ったそうだ。

さて本題。その後ブームとなる金田一作品の先駆けといえる1975年の映画「本陣殺人事件」(高林陽一監督)で金田一耕助役に抜擢(ばってき)されたのが中尾だった。このとき33歳。

本作は、小説の刊行後、47年に早くも「三本指の男」として映画化された。このときの金田一は片岡千恵蔵で背広にネクタイと帽子スタイルだったが、一方、中尾版では当時の書生スタイルにジーンズとなっている。

ミステリーの王道である「密室殺人」だが、中尾のベルボトムジーンズにデニムのベストというヒッピー風スタイルにはまったく違和感がなかったともっぱらの評判だった。むしろポップでおしゃれだとさえいわれたものだ。今でこそジーンズが普段着となったが、当時はまだまだ少数派。スタイルのいい中尾のジーンズ姿がいかに新鮮に映ったか分かる気がする。

カット割りやフレーミングで幻想的なシーンを作り出すなど、以降の金田一作品と違っていかにもATG仕様だ。

本作では金田一はあくまでナビゲーター。謎解きやトリックに重点を置かず、インモラルで封建的な時代背景、琴といった伝統的な小道具と文化の闇の部分をミステリーに昇華させることにフォーカスしているので、中尾の演技は当然フラットになりとっつきやすい。

石坂浩二の金田一がスタンダードだと思っている人はイメージを払拭して中尾金田一をみるといい。 (望月苑巳)

■中尾彬(なかお・あきら) 俳優。1942年8月11日~2024年5月16日。81歳没。千葉県出身。61年に武蔵野美術大学油絵学科へ入学。同年に日活ニューフェース第5期に合格。翌年に日活を退社、大学を中退してフランスへ留学する。63年に帰国して劇団民藝に研究生で入団。1971年に民藝を離れ、各映画会社やテレビドラマで活動を始める。妻は女優の池波志乃。

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