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八幡和郎 民主主義の危機・国家指導者 総裁候補の地方・防災対策 石破氏掲げるお粗末な「地方創生と防災省創設」 高市氏の「国土強靱化」は維持コスト面で負の遺産に

zakzak by夕刊フジ 2024年9月26日 15時37分

自民党総裁選は、地方対策について声を上げる最高のチャンスだ。1972年には「日本列島改造論」を掲げた田中角栄元首相が、本命だった福田赳夫元首相を破って勝利した。

今回の総裁選(27日投開票)での各候補の「地方振興」や「防災」についての主張は、河野太郎デジタル相が「東京大学の地方移転」などを提案しているが荒削りだ。他の候補は「従来路線の継続」と「思いつき」に終始している。

特に、石破茂元幹事長は「地方創生と防災省創設」を看板にしながら、内容がお粗末過ぎる。地方に隙間狙いの自助努力を求める里山資本主義に基づくようだが、市場規模が小さいから、地方同士で無駄な競争をさせるだけだ。

石破家は、1958年に父の二朗氏が知事になってから66年間、鳥取県政界に君臨してきた。その路線が東京一極集中という基本構造を変えるのに無力なことは、石破氏の地元である鳥取県の人口減で立証済みだ。

「防災省創設」のような提案は、具体策を思いつかない人のいうことだ。組織は創設し、機能するようになるのに時間がかかる。これに限らず、石破氏は、岸田文雄首相以上に具体的なアイデアを持たない「検討使」のようだ。

小泉進次郎元環境相の「第一次産業と観光の融合」なども、小さいパイの食い合いだし、大都市近郊以外では難しい。

防災・復興で首相に望まれるのは、「減災のための抜本策」であり、災害時にどんな態勢を構築するかだ。危険なところには住まず、安全なところに移転させて良質のインフラに集中投資し、復興は元に戻さず、さらにいいものをつくるのが王道だ。

高市早苗経済安保相の安全対策は意欲は認めるが、「国土強靱化」は費用対効果の悪い投資で、建設業界を喜ばすだけになりがちで、維持コストという負の遺産を残す。

災害時には首相自身より、関東大震災時に帝都復興院総裁兼内務大臣を務めた後藤新平のような人物に全権を集約し、首相はそれを支えるのが正しい。

「一刻も早く元の生活を」は愚策だ。災害に弱く、特に過疎が進んでいた地域をそのまま再建してもすぐダメになる。いま石川県・能登半島の被災地が水害に襲われているが、インフラが損傷して再建に時間がかかるのに、被災者を元の土地に残した結果である。

安倍晋三内閣の復興副大臣で、政界引退後に福島第1原発事故の被災地である福島県双葉町に移住し、復興事業の手伝いをしている浜田昌良元参院議員(公明党)がいる。

浜田氏は、元の住民にすべて戻ってもらえるわけでないので、新住民も移住したいような地域づくりをしないと、戻ってくる住民の生活も維持できない―という。卓見だと思う。

■八幡和郎(やわた・かずお) 1951年、滋賀県生まれ。東大法学部卒業後、通産省入省。フランス国立行政学院(ENA)留学。大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任し、退官。作家、評論家として新聞やテレビで活躍。国士舘大学大学院客員教授。著書・共著・監修に『安倍さんはなぜリベラルに憎まれたのか―地球儀を俯瞰した世界最高の政治家』(ワニブックス)、『日本の政治「解体新書」世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書439)、『民族と国家の5000年史』(扶桑社)、『系図でたどる日本の皇族』(宝島社)など多数。

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