全国的にインフルエンザが猛威を振るい、新型コロナウイルス感染症も続いている。そうしたなか、中国発の「ヒトメタニューモウイルス」による呼吸器感染症がインドなどアジア圏に拡大していることが懸念されている。コロナ禍で医療機関が逼迫(ひっぱく)したことも記憶に新しく、X(旧ツイッター)などでは懸念や対策を求める声であふれている。今月下旬に始まる中国の旧正月「春節」では延べ90億人が移動し、日本を訪れる観光客も増える見込みだ。感染症にどう向き合うべきか。
「タミフル」供給停止
国内でこの冬はインフルエンザと新型コロナ、マイコプラズマ肺炎の〝トリプルデミック〟が警戒されてきた。
特に深刻なのがインフルエンザだ。昨年12月22日までの1週間に全国約5000ある定点医療機関に報告されたインフルエンザの新規患者数21万1049人だった。1医療機関あたりの患者数も42・66人で、国が定める警報の発令基準「30人」を超えている。東京都は1医療機関当たり40・02人で、6年ぶりに警報基準を超えた。
インフルの流行を受けて、治療薬「タミフル」のジェネリック医薬品(後発薬)の在庫が逼迫し、一時的に供給停止となる事態となった。厚労省は8日、過剰な発注を控えたり、他社製品や代替薬に処方を変えたりするよう協力要請する事務連絡を都道府県などに出した。
一方、中国では昨年11月からヒトメタニューモウイルスによる呼吸器感染症が拡大傾向にあると中国疾病予防センターが明らかにした。当初は中国北部で流行し、南部でも患者が増加しているという。
ヒトメタニューモウイルスは新しいウイルスではなく、2001年に発見されたものだ。乳幼児を中心に感染し、肺炎などの急性呼吸器症状や発熱の原因となる。日本でも過去に高齢者施設で集団感染した例もある。コロナ禍でもRSウイルスともに小児科などで感染が注視されていた。
専門家「風邪の一種だが対策必要」
ウイルスの性質や症状について、東北大学災害科学国際研究所の児玉栄一教授(災害感染症学)は「高熱や鼻、のどの症状が多く、風邪の一種だ。ウイルスが確認された背景には検査技術が発達したことがある」と解説する。
世界保健機関(WHO)は7日、中国の状況について「報告数は冬の時期に予想される範囲内だ。異常な感染拡大の報告もない」との情報を公表した。中国の保健当局から医療体制の逼迫(ひっぱく)が起きているとは聞いていないとも付け加えた。
前出の児玉氏は「日本にも存在するウイルスなので、水際対策の効果はない。新型コロナやインフルエンザに比べるとリスクは低いが、基礎疾患を持っている人や、初めて感染した子供や高齢者は肺炎などで重症化する可能性も否定できない。どのような風邪のウイルスも、流行数次第では毒性が強まる恐れもあるので注意が必要だ」と説明する。
ただ、中国だけでなくインドや、インドネシアでも乳幼児の感染が確認された。ベトナムなど周辺の国も警戒を強めている。
中国では28日には春節に伴う連休も始まる。帰省や旅行に伴う中国内外の移動は延べ90億人に達するとみられる。
昨年1~11月に日本を訪れた中国人観光客は637万6900人で、前年同期比201・8%増だったが、春節の時期には大幅に入国者が増えることも予想される。
こうした背景から、X上では、「水際対策をしないと大変な事になるぞ?」「コロナの二の舞になる」「日本がノーガードだったらどうなる」と対策を求める声など投稿が相次いだ。
日本はどんな対策が求められているのか。
関西福祉大学の勝田吉彰教授(渡航医学)は「感染症法上の1類や2類に該当しない場合、検疫を止めるといった法的根拠のある対策を講じることはできない。風邪の一種である以上、過度にパニックにならない限り、医療への影響はないと考えていい。一方で海外からの観光客が増えることに備えて、飲食店や観光施設も換気に注意するなど、コロナ禍と同様の対策はすべきだろう」と強調した。