大相撲初場所 12日目=23日、東京・両国国技館
大関豊昇龍(25)=立浪=が、元横綱の叔父朝青龍(44)が送り込んだ〝刺客〟を返り討ち。1敗で優勝争いトップを走っていた西前頭14枚目の金峰山(27)=木瀬=を下し、3敗死守でわずかに残る綱とりの望みをつないだ。横綱審議委員会の山内昌之委員長(東大名誉教授)は夕刊フジの直撃に対し、12勝での優勝でも横綱昇進を後押しする方針を表明。20場所も一人横綱を続けてきた照ノ富士(33)=伊勢ケ浜=が場所中に引退し、このままなら32年ぶりの横綱不在となるだけに、100周年を迎えた日本相撲協会の出方に注目が集まる。 (塚沢健太郎)
照ノ富士引退、琴桜昇進絶望で横綱不在危機
金峰山をはたき込み、自力で1差に迫った豊昇龍は「(立浪)親方に『楽しくやれ』と言われた。1日一番、集中してやっています」と気合が入った表情を崩さず。
母国カザフスタンで柔道に励んでいた金峰山を現地でスカウトし、角界入りさせた朝青龍は今場所の活躍に鼻高々。9日目の20日には、自身のXに「カザフの子良く頑張っているね。少しおしゃれ俺がカザフから入らんだ子だよ。ふふ」(原文ママ)と投稿した。
金峰山は朝青龍との付き合いを「そのときだけ。それから会っていない」と意外な告白も、師匠の木瀬親方(元前頭肥後ノ海)は「『最近どうですか? ケガの具合はどうですか?』とよく電話をしてきて心配している」とこっそり気にかけている様子を明かす。
綱とりが崖っぷちの豊昇龍にしてみれば、叔父が課した試練を見事に乗り越えた構図だ。昇進の内規は2場所連続優勝かそれに準ずる成績で、先場所千秋楽に大関琴桜(27)=佐渡ケ嶽=との相星決戦で敗れた豊昇龍は、今場所優勝すれば条件を満たす。ただ、近年で直近場所に12勝の優勝で昇進した例は1998年の3代目若乃花のみ。しかも14勝での優勝に続く2場所連続Vだった。
豊昇龍の3敗が平幕相手というのも心証の悪さに拍車をかけるが、この日に国技館を訪れた横審の山内委員長が重大発言だ。「協会や横審の他の委員はどう考えているかわかりませんが。横審の委員長として個人の考えで、3敗というのは微妙でありますが、優勝というのは重いと思います」と持論を展開。「4敗となると優勝しても…。これ以上は負けられませんね。(3敗なら)議論したうえで、前向きに考えたいという人が出てくれば、協会も横審も(昇進案を)排除されないのではないでしょうか」と新横綱誕生を後押しした。
55年ぶりの横綱ダブル昇進も期待された今場所だったが、序盤からつまづいた琴桜がこの日も西前頭11枚目の尊富士(25)=伊勢ケ浜=に敗れ7敗目。綱とりから一転、かど番のピンチに立たされた。一人横綱の照ノ富士も引退し、次の春場所(3月9日初日・エディオンアリーナ大阪)は横綱空位が濃厚となるなか、横審のトップがかけた〝待った〟が昇進のハードルを下げるのか。
山内委員長は2023年秋場所で貴景勝が11勝で優勝した際も、翌場所は綱取り場所との見解を示しており、「私はそういう機会はなかなか訪れないという認識。与えられた機会の中で最大限努力して、状況との関係で決まる。力士たちの状況や大相撲の置かれている将来性とか、総合的に考えてもいいのではないでしょうか」と力説。「ロンドン公演(10月)も控えていますし、華がある結果になってほしい」と希望を込めた。徳俵から一発逆転のチャンスを示された豊昇龍は、期待に応えて残り3日間、文句のつけようがない内容で全勝するしかない。