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「脱炭素」でも石破首相〝絶望〟トランプ氏は会ってくれない…日本の再エネ利権で喜ぶのは中国 せめて野党が「電気代抑制」掲げるべき

zakzak by夕刊フジ 2024年12月13日 15時10分

杉山大志氏が緊急寄稿

石破茂内閣が年内に素案をまとめる「第7次エネルギー基本計画」で、2040年度の電源構成に占める再生可能エネルギーの比率を4~5割程度とするシナリオを示す方向で調整に入ったようだ。ドナルド・トランプ次期米大統領は、ジョー・バイデン政権が進めてきた気候変動対策やエネルギー政策を「グリーン詐欺」と批判し、「パリ気候協定離脱」や「化石燃料の増産」を掲げているが、石破内閣の方向性は違う。石破首相はいまだに、トランプ氏との早期会談を実現していないが、日米同盟を維持できるのか。日本経済や国民生活を守り切れるのか。エネルギー政策に詳しいキヤノングローバル戦略研究所研究主幹、杉山大志氏が緊急寄稿した。

石破首相は10月30日に、年内の次期エネルギー基本計画策定を指示した。これを受け、政府は「50年CO2(二酸化炭素)ゼロ排出」を直線的に目指すとして、30年46%削減という目標に続いて、35年60%削減、40年73%削減という数字を11月25日に提示した。

さらに、日経新聞(9日)によると、政府は40年の発電量構成について、「再生可能エネルギーを4~5割程度とする調整に入った」とある。

国民生活を苦しめる重要な数字に関する議論が「非公開」で進められ、しかもリークと思われる記事で最初に公表され、1週間後の今月17日にはお飾りの審議会で了承されてしまう様相である。

国会での議論を、あからさまに回避する姑息なプロセスだ。

発電量構成に話を戻すと、日経記事によれば、再エネが4~5割程度、原子力が2割程度、火力などが3~4割程度、となっている。

再エネは現状では2割程度だが、この半分は水力で、残り半分の1割程度が太陽光や風力である。今後の大幅な増大を見込んでおり、政府のいう「4~5割程度」とは、現状の3~4倍程度にする、という意味になる。

これは問題だらけだ。

太陽光・風力発電は「お天気任せ」なので、いくら建設しても、安定的な電力供給のためには火力発電を無くすことはできない。日射がなくても、風が止んでいても、電気は必要だからだ。このため太陽光・風力発電は、本質的に、火力発電に対して「二重投資」になる。

このため、太陽光・風力発電を大量導入すると、電気料金は異常に高くなる。ドイツの電気料金は欧州の中で最も高い。米カリフォルニア州の電気料金は、フロリダ州の倍もする。

こうした世界の現状がありながら、日本政府と与党は「再エネ」に突き進む構えだ。国民経済を破壊する「再エネ利権」を放置するのか。

米国では来月、トランプ大統領が復活する。バイデン政権が進めた「グリーンディール政策(脱炭素のこと)」はことごとく廃される。これに代わり「エネルギードミナンス(優勢)の確立」を目指すことになる。

すなわち米国が豊富に有する石油、天然ガス、石炭の採掘を進め、安価なエネルギー供給を実現して、経済を発展させ、軍事力も強化して、敵を圧倒する。

せめて「電気代の抑制」を基本計画に明記すべきだ

トランプ氏は就任初日の来年1月20日、「パリ協定」の離脱を表明することが確実だ。世界情勢の緊迫で、気候変動問題は、もはや国際的な議題にすらならなくなる。

ロシアは石油と天然ガスを採掘して輸出することで、経済を維持して軍事費を賄っている。中国とインドはロシアから大量に石油を買い、火力発電所を建設し続けている。いずれも「CO2を減らせ」と欧州が説教しても止めるはずがない。

すべての国が協調してCO2をゼロにするなど、元来妄想に過ぎなかったが、地政学的緊張でこれがいよいよ明白になった。

さて、日本はどうするか。3つの策がある。

第1は、下の策で、無為無策。このままエネルギー基本計画にCO2目標と再エネ目標を書きこんで、それをパリ協定に提出する。日本の経済は破滅するが、世界の太陽光パネルの9割を生産する中国は大喜びだ。この愚かな政策をみて、トランプ氏はますます石破首相を相手にしなくなる。

第2は、中の策で、条件闘争。「直線的」な数値目標をやむなく受け入れるが、別途「電気代の抑制」をエネルギー基本計画に盛り込む。電気代は、東日本大震災前の10年水準に比べて、大幅に高騰した。これを「10年水準に戻す」と明記すべきだ。

再エネ大量導入を止め、原子力を再稼働すれば、これは達成できる。電気代目標を設定しておけば、政策を具体化する段階で、電気代上昇につながる愚かな再エネ補助金や再エネ導入規制を止めることができる。

第3は、上の策。エネルギー基本計画にCO2目標を書きこませず、パリ協定からは離脱する。米国とともに、安価で安定したエネルギー供給を達成する。

もちろん、「下の策」は論外だ。「上の策」は残念ながら、国会の理解が追い付かない。せめて「中の策」を取るよう、進言する。

政府与党は再エネ利権にまみれているように見える。

先の衆院選で、国民民主党は「手取りを増やす」という公約で支持を集めた。いまこそ野党は「電気代を下げる」という公約を掲げ、国民の生活を守るために戦うべきだ。

■杉山大志(すぎやま・たいし) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1969年、北海道生まれ。東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員などのメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書・共著に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『亡国のエコ』(ワニブックス)、『SDGsエコバブルの終焉』(宝島社新書)など。

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