これもプロレス あれもプロレス たぶんプロレス きっとプロレス。令和のマット界には、多様性の時代を象徴するかのようにさまざまなスタイルのプロレスが存在する。団体数、プロレスラーの人数、ベルトの数…誰も正確にはわからないのではないか。まさに何でもありなのがプロレスだ。
今年の幕開けノアの元日決戦(1・1日本武道館)で、キャリア2年あまりのOZAWAがGHCヘビー級王座を清宮海斗から奪い取った。清宮の私生活を暴露しまくる〝口撃〟に、かみつきなど文字通りの口による反則プレー駆使する口八丁手八丁でアッという間に頂点に駆け上がった。ノアマットに新風どころか嵐を呼び込んでみせた。
昨年は、キャリア2年目の安齊勇馬が三冠王者に君臨し、王道マットに若き軍団ELPIDA(希望)を立ち上げた。今や全日本はカタカナ表記「ゼンニッポン」が似合うようになった。
全日本プロレスに続いてノアを一気に世代交代させたOZAWA。何よりコミュニケーション力に長けている。SNSなどで披露するOZAWAのコメント力は「理不尽大王」冬木弘道、「200%男」安生洋二、「制御不能」内藤哲也…諸先輩たちに勝るとも劣らない。
プロレスラーがマイクを握るようになったのはいつからだろうか。かつてはアナウンサーに差し出されたマイクに、難敵を退けたトップ選手が一言、二言、短いコメントを残すぐらいだった。それもTV放送されたビッグマッチでのことだった。不完全燃焼に終わり「え、これで終わり?」とファンが不満を訴える大会もあった。体調不良だったアントニオ猪木が登場したものの、延髄蹴り一発で試合終了。あっけないフィナーレに会場が不穏な空気に支配された。
選手はあっという間に引き揚げ、関係者も姿を現さない。リングサイドに一人取り残されてしまった。「何だよ、あれ」と迫るファンに「僕は記者ですから」と応じるのが精一杯。一発くらうことも覚悟したが、屈強なリング屋さんが割って入ってくれた。今でも冷や汗が出てくる思い出だ。
現在はバッドエンディングでもマイクで締めくくられる。ファンも決め台詞やエスプリの効いたコメントを楽しみにしている。「家に帰るまでがデスマッチ」という名言があるが、ファイトだけではなくマイクも「プロレス」と言っていい。試合後の選手のコメントどころかSNSのチェックも必須。強さに加えて発信力。令和のプロレスラーにはさまざまな能力が求められる。大変な時代になったものだ。
この10年あまり、夕刊フジに寄稿させてもらった。一つひとつの記事に思い入れはあるが、猪木の田鶴子夫人に捧げた追悼文が思い出深い。猪木から「ありがとう。彼女も喜んでいる。お棺に入れさせてもらうよ」と電話をいただいた。涙声の猪木にこちらの目頭も熱くなった。今回がこの連載も最終回。皆さん、ありがとうございました。今日も一緒にプロレスを楽しみましょう!=敬称略 (プロレス解説者)