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ぴいぷる 歌舞伎俳優・尾上右近 〝血よりも濃い〟親獅子からの愛 子獅子に尾上眞秀を抜擢した理由「私たちは世襲の歌舞伎俳優ではない」

zakzak by夕刊フジ 2024年8月15日 11時0分

〝歌舞伎界のプリンス〟

天才子役の名をほしいままにしてきた〝歌舞伎界のプリンス〟は32歳になった今、改めてこう覚悟している。

「歌舞伎界を背負う覚悟。その世代に入りましたから。チャンスがあれば、歌舞伎以外のどんなジャンルにも挑戦していきたいと思っています」

力強い宣言通り、ミュージカル「ジャージーボーイズ インコンサート」(2020年)で舞台に挑み、映画「燃えよ剣」(21年)で日本アカデミー賞新人俳優賞を獲得するなど歌舞伎俳優の枠を超えた活躍が目覚ましい。

一方で15年に始めた主戦場の歌舞伎の自主公演「研の會」は今年で第8回を迎える。

「始めた頃は10回まで続けようと決めたのですが、2年後に通算10回目を迎えます」と語り、表情を引き締めると、まなざしに鋭い目力がこもった。

23歳で始めた「研の會」への思い入れはひと際強い。

「自分の好きな演目を選び、自分の好きな配役を決め出演を依頼する。歌舞伎に演出家はいないので、自分で演出し、企画をプロデュースし、舞台セットなどもすべて自分で決めなければなりません」

誰にも頼ることのできない、誰のせいにもできない、年に一度の自主公演を自らに課すことで歌舞伎俳優としての経験を積み上げてきたという自負がある。

「毎年、こだわりの演目を自分で吟味しながら選んできましたから」

今年初めて大阪公演も決まった。「摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)」と「連獅子」の猛稽古に今、汗を流す。

継母・玉手の無垢な愛

「『摂州―』はもともとインドの古典が日本へ伝わり、大阪を舞台にした歌舞伎となりました。義理の息子に恋する玉手御前を私が演じます。若い母が継子に恋をするという禁断の物語ですが、それは果たして恋なのか、愛なのか? あえて私がどう考えながら演じるかは申しません。その答えは、見る人の判断にゆだねたいと思っていますので…」

淀みなく〝こだわりの演目〟を解説してくれた。

共演者についても「私自身が今、見てみたいと思う歌舞伎俳優を選び抜いて配役しています」と〝プロデューサー〟としての役割も8回目となると板についたものだ。

「連獅子」では親獅子を演じ、子獅子を演じるのは11歳の尾上眞秀。今公演で右近が最もこだわり抜いたという配役でもある。

「初めて『連獅子』で親獅子を演じます。これまで4回、『連獅子』を演じてきましたが、いずれも子獅子でした」

子獅子を演じた過去4回の舞台では市川團十郎、市川猿之助、尾上松也、尾上菊之助の4人の先輩が親獅子を演じている。

世襲のつらさ痛いほど

「世襲の歌舞伎の世界では『連獅子』は血縁者や親子で共演するということが多いのですが、私の父は歌舞伎俳優ではないので、先輩たちが親獅子を務めてくれました。今度は私が初めて親獅子となって歌舞伎界に少しでも、そのお返しができれば、と思っています」

なぜ、眞秀を抜擢?

「彼も父親が歌舞伎俳優ではありません。そんな彼に声をかけたら、『連獅子』を見るのがつらかった、と言うのです。歌舞伎の世界の親子の関係を見せられるのがつらいのだと。私も同じ道をたどってきましたから、そのつらさは痛いほど分かります。同じ思いを共有しながら『連獅子』を演じたいと思いました」

眞秀の母は女優の寺島しのぶ。祖父は七代目尾上菊五郎。そして父はフランス人だ。

清元節宗家の出から、歌舞伎俳優を志した自身の人生を眞秀と重ねる。

寺島は「その思いを舞台で息子へ受け渡してほしい」と切望した。

「〝血は水より濃い〟といわれますが〝血より濃い水〟がある。それをこの舞台でお見せしたい」

たくましさを身につけた〝プリンス〟は「10回公演の区切りで全国ツアーを果たし、35歳で次の挑戦に打って出たい」とさらなる覚悟を誓った。

あすは作曲家の井上ヨシマサさんです

(ペン・波多野康雅/カメラ・鳥越瑞絵/レイアウト・市川高子)

自主公演「研の會」は8月31日・9月1日大阪・国立文楽劇場、9月4・5日東京・浅草公会堂

■尾上右近(おのえ・うこん) 歌舞伎俳優。1992年5月28日生まれ、32歳。東京都出身。清元節の宗家に生まれながら、七代目尾上菊五郎の元で歌舞伎俳優として修業し、2005年、二代目尾上右近を襲名。18年に清元栄寿太夫を襲名し、清元節との両立を誓う。NHK大河ドラマ「青天を衝け」(21年)、映画「身代わり忠臣蔵」(24年)などで俳優としても活躍。自主公演「研の會」は8月31日、9月1日=大阪・国立文楽劇場で、9月4、5日=東京・浅草公会堂で上演する。

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