アジアのゲストハウスといえば、フロントに常駐しているダウナーな兄ちゃんが机の下からこっそりマリフアナをチラつかせてくるのがお決まりとなっているが、ここウランバートルのゲストハウスは総じてフロント不在&セルフチェックインの民泊スタイルを導入している。
それを「味気ない」などと揶揄するつもりはないのだが、そのスタイルでやっていくのなら、せめてチェックインの体制だけでもキチンと整えておいてほしい。
マンションの1フロアを貸し切って営業しているゲストハウスを予約したのだが、チェックイン時間になっても一向に鍵に関する連絡がこないのだ。そもそも、マンションがオートロック式なので建物に入ることすらできない。
途方に暮れているとマンションの駐車場に1台の青いジープが止まり、運転席から降りてきた青年がエンジンをいじりだした。このマンションの住人だろうか。声をかけて助けを求めると、ゲストハウスのオーナーに電話をしてくれた。何と今日オープンしたばかりのゲストハウスらしい。さすがに初日から予約が入るとは思っていなかったようで、市外に出かけているとのことだった。ゲストハウスの鍵も持って出掛けてしまったので、3時間ほど待っていてほしいというのだ。どうしたものか再び途方に暮れていると、青年が「俺の事務所でゆっくりしてなよ」と言う。
何でも青年はこのマンションに事務所を構える貿易会社の社員で、今からちょうど打ち合わせがあるという。若干の不安を抱えながらも、人の良さそうな青年を信用して事務所にお邪魔させてもらうと、そこではすでに2人の男がパソコンを広げて何やら真剣な顔で話し合いをしていた。
彼らは創業間もない小さな貿易会社を営んでおり、そのビジネスは中国から仕入れた工事用車両のタイヤをモンゴルの企業に売るというものだった。仕事熱心な青年は目を輝かせながら私にこう話した。
「俺たちほどベストな3人組はなかなかいないぜ」
モンゴル人の青年はモンゴル語と英語を話し、モンゴル国内の事情に精通している。もう1人の男は中国人で、中国語しか話せないものの中国国内に太いパイプを持っている。そして、普段から民族衣装をまとっているこの会社の社長である男は、内モンゴル自治区の出身。モンゴル語と中国語を操るので、社内の翻訳係でもある。そして何よりも、両国の事情に詳しいため、価値観をてんびんにかけながら物事を判断できるというわけだ。
言い得て妙である。中国とモンゴルを結ぶ貿易会社の布陣としては確かにこの上ない。私は生まれてこの方、「就職」というものをしたことがない身だが、モンゴルの地でベンチャー企業の〝勢い〟というものを初めて体感したのであった。
■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。近著「ルポ 歌舞伎町」(彩図社)がスマッシュヒット。