昨年12月、米国は中国とロシアの核兵器とミサイルに対抗するため、核兵器の近代化と大幅強化のための予算を成立させた。同23日にジョー・バイデン大統領の署名を得て成立した2025会計年度国防権限法だ。
来年度の国防予算の概要を定めたこの法律によって、米国は「核なき世界」から「核戦力強化」へと大きく方針を転換した。
米国の核戦力は主に、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)」「戦略爆撃機」「弾道ミサイル潜水艦(SSBN)」の3つで成り立っている。
21世紀に入って、この3つの更新、近代化が滞っていたのだが、今回、以下のように近代化予算が計上された。
①ICBMの更新=新型の次世代大陸間弾道ミサイル(GBSD)の開発
②戦略爆撃機の更新=開発中の次世代ステルス戦略爆撃機(B―21レイダー)の導入
③SSBNの更新=次世代の戦略原子力潜水艦コロンビア級潜水艦の開発
実は、「核なき世界」を主張するバラク・オバマ民主党政権やバイデン民主党政権は核戦力の近代化に消極的で、新たな技術(AI、精密誘導技術など)もあまり導入されてこなかった。だが、「力による平和」を訴えるドナルド・トランプ氏が大統領に再選されたことから、連邦議会も核戦力の近代化に向けてかじを切ったわけだ。
今回の国防権限法では「第4の核戦力」と呼ばれる「海上発射型核巡航ミサイル(SLCM―N)」の開発予算も計上された。これは小型核弾頭を搭載した海上発射型の巡航ミサイルで、攻撃型原潜や水上艦から発射可能だ。
このSLCM―Nの前身は1980年代に配備されていた核トマホーク(TLAM―N)だ。だが、冷戦終結を受けて91年、共和党のジョージ・H・W・ブッシュ大統領により運用から外された。そして、2010年、民主党のオバマ大統領によって廃止が決定された。
しかし、中国の戦術核ミサイルに対抗するためには戦術核ミサイルが必要だということから、第1次トランプ共和党政権は18年、SLCM―Nの開発に着手した。だが、バイデン民主党政権は22年10月の「核態勢見直し(NPR)」においてSLCM―Nの開発計画を中止してしまう。「他の核能力との機能重複の可能性」や「開発・配備に伴う予算・資源の優先順位の問題」といった理由からだ。
今回、連邦議会はSLCM―Nという第4の核戦力の開発予算を復活させた。その背景には、従来の核戦力だけでは中国による「核の恫喝(どうかつ)」に十分に対応できない、という情勢認識がある。
当然、この核戦力の強化には莫大(ばくだい)な予算がかかる。トランプ次期政権は、日本にも相応の負担を求めている可能性が高い。また、日本への核兵器を搭載した原潜や爆撃機の立ち寄りを打診してくるかもしれない。これらはいずれも「非核三原則の見直し」が必要となる。
中国、ロシア、北朝鮮による恫喝に屈しないため、日本もトランプ次期政権と歩調を合わせて従来の核政策を大きく転換したいものだ。 =おわり
(麗澤大学客員教授)