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BOOK 親の就労を保証、子供の成長を促す社会・経済的インフラ 最前線で格闘する実態聞く 萩原和也さん『知られざる<学童保育>の世界』

zakzak by夕刊フジ 2024年10月13日 10時0分

待機児童問題が保育園で勃発したのが約10年前。それが小学生にスライドした形で現在、学童保育に不安を持つ親が多い。働く親のサポーター・学童保育所が正しく機能することで、引いては保護者だけでなく社会全体の幸福度が増してゆく――本書の著者、萩原和也氏はそう説く。学童保育運営支援アドバイザーとして最前線で格闘する実態を聞いた。

法律で規定されず

――「学童保育」とは仕組みであって制度ではないそうですね

「ええ、学童保育という制度が法律に規定されているわけではないのです。学童保育を行う場所が一般的に学童保育所と呼ばれますが、二つのタイプがあります。一つは児童福祉法で定める『放課後児童健全育成事業』を実施している施設『放課後児童クラブ』を指します。子供を〝預かる〟のではなく、安心・安全な場を提供して成長を〝支援・援助〟するのが目的のこの児童クラブが学童保育所だとほぼ理解されているし、そう呼ぶ地域も多いです。小学1年生から6年生が対象ですが、地域によっては3年生までとか、4年生までとなっています」

――もう一つは

「子供を〝預かる〟という目的に加えて、学校の成績を上げるための学習を提供したり、スポーツやダンス、プログラミングや食育など子供向けのカリキュラムを用意している施設があります。よく『民間学童保育所』と呼ばれています。送迎や食事提供などの追加サービスが充実していることもあって費用が高い。月5万円から10万円近い施設もあります」

<日本死ね>で前進

――少子化なのに学童保育所は不足気味

「共働きの家庭が増え学童保育の利用者が増えているにもかかわらず、少子化だからと自治体が施設の整備に乗り気ではないんですね。また昔に比べ地域のコミュニティー機能が薄くなり、子供の見守りができにくくなっています。学童保育は親の就労を保証し経済活動を支える仕組みであり、一方で子供たちが人として成長していく場所。私が、学童保育は社会的・経済的インフラだと考えるのは、こうした役割を持つからなんです」

――SNSへの投稿<保育園落ちた日本死ね>(2016年)は社会的反響を呼びました

「あれは小学校に入る前の未就学児が対象の保育所不足を訴えたもので、投稿を機に保育所の待機児童対策は全国で一気に前進しました。ですが、学童保育所不足はいまだ解決されません。いまや待機児童は保育所より学童の方が圧倒的に多く、コロナ禍の時期を除いて学童保育の待機児童数は年々増えているのにです。小学1年生で入所できない〝小一の壁〟問題以外にも、学童保育が利用できなくなる小学4年の待機児童の〝小四の壁〟問題も深刻です」

支える側の保証も

――学童保育の理想は

「一昨年でしたか、学童保育所で働く人からのXへの投稿には愕然としました。『給料が安くて夫婦で生活するのがやっと。子供をあきらめた』と。学童保育はあって当たり前の時代から生きていく上で必須の社会的インフラと捉えれば、それを支えるエッセンシャルワーカーとしての権利はもう少し保証されても良いのでは。やりがいを感じて仕事を続ける人の善意を逆手に〝やりがい搾取〟が行われないような社会になればいいですね」

「そんな中ですが2023年、『こども家庭庁』が発足し、こどもまんなか社会を目指す取り組みが始まりました。欲を言えば、学童保育所こそを子供が成長する場との観点で考えていってほしいです」

――学童保育所側の変革も必要だと

「今は短期間で取得できる『放課後児童支援員』という資格とは別に、学童保育という仕事の誇りにつながる新しい資格制度の導入もあっていいかと。保育所と同じように市区町村に設置義務を課すなど制度の骨格が充実すれば、子供の虐待や悲惨な死亡事故などを未然に防ぐシステムがさらに整います」

――次なる一手は

「新人の女性放課後児童支援員を主人公とした小説を書き始めています。思わぬところで世間の常識が仇となったり、良かれと思ってしたことがボタンのかけ違いの端緒となるなど仕事の難しさを浮き彫りにしながら、それらを一つずつ解決して主人公が成長していく姿と、児童虐待、子供の福祉と貧困問題も織り交ぜ現状をリアルに描きたいと思います」

■『知られざる<学童保育>の世界』寿郎社、2090円税込み

現代の子育てに不可欠な学童保育。だが知っているようで知らないのが学童保育の世界だ。本作は、学童保育を利用中の保護者や業界にいる人にはエールとともに、一緒に問題点を考える際の指南書となり、これから学童保育に携わる人には学童保育の歴史や行末を深く知るテキストとなるだろう。

■萩原和也(はぎわら・かずや) 1970年1月21日東京都生まれ。54歳。中央大学法学部卒。産経新聞、夕刊フジ記者を経て、2011から22年までNPO法人「あげお学童クラブの会」代表理事など、運営事業者として学童保育所の運営にかかわる。19~21年埼玉県学童保育連絡協議会副会長。23年日本で唯一の学童保育所の運営支援を行う非営利法人「あい和学童クラブ運営法人」を設立、学童保育支援アドバイザーに。

(取材・冨安京子/撮影・鈴木健児)

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