岩屋毅外相は25日、訪問先の中国・北京で李強首相や、王毅共産党政治局員兼外相と会談した。岩屋氏は、沖縄県・与那国島南方の日本の排他的経済水域(EEZ)内に中国が新たに設置したとみられるブイの即時撤去や、日本産水産物の早期輸入再開などを要求した。一方で、日中双方で「戦略的互恵関係」を推進することを呼び掛け、来年早期の王氏訪日に向けて調整する考えで一致した。岩屋氏は会談後、中国人向けの査証(ビザ)発給要件の大幅緩和を表明した。今回の訪中を、ドナルド・トランプ次期米政権のメンバーはどう見ているか。ニューヨークに滞在するジャーナリスト、長谷川幸洋氏が緊急寄稿した。
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岩屋外相の訪中は、トランプ次期米大統領の就任直前というタイミングで行われた。中国の「日米同盟に楔(くさび)を打ち込みたい」という思惑を十分承知しながら、日本が応じたかたちだ。米国は石破茂政権への不信感を強めたに違いない。
日中両外相は会談で「戦略的互恵関係」を推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築するという方向性を確認した。会談では、「来年の最も早い適切な時期」に王氏の訪日を実現し、その際に「日中ハイレベル経済対話」を開催することで合意した。
さらに、岩屋氏と阿部俊子文科相は、王氏らと「ハイレベル人的・文化交流対話」を開き、日中間の人的・文化交流の再開でも合意した。
中国による沖縄県・尖閣諸島周辺での威嚇・挑発が止まず、拘束されている日本人の解放もないなか、石破政権は〝なし崩し的〟に中国との連携強化に驀進(ばくしん)している。
そもそも、10月に外相に就任したばかりの岩屋氏が真っ先に訪問しなければならないのは、日本にとって唯一無二、最重要の同盟国・米国であるはずだ。
岩屋氏は11月にペルーの首都リマで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)閣僚会議に合わせて、アントニー・ブリンケン米国務長官と会談している。ただ、時間にして、わずか30分だった。ほとんど表敬に近い。
今回の日中外相会談は6倍の3時間だ。これでは「日本の最重要パートナーは中国」と言ったも同然ではないか。
米司法省は11月、日本でのカジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業をめぐって、中国企業「500ドットコム」(現ビット・マイニング)の元最高経営責任者(CEO)を海外腐敗行為防止法違反で起訴したと発表した。同社は、IRを開設するため、日本の国会議員らに約190万ドル(約2億9000万円)の賄賂を支払っていた。起訴状では国会議員らの名前は伏せられていた。
この事件をめぐっては2019年12月に東京地検特捜部が摘発し、日本での捜査は終結している。一部メディアで岩屋氏の名前も報じられたが、岩屋氏は国会で「中国企業から金銭を受け取ったなどという事実は断じてない」と答弁している。
東京地検特捜部と連携して捜査していた米司法省が、事実関係について情報を握っていないわけがない。法的責任の有無はともかく、米国にとっては、この問題も岩屋氏と石破政権を評価する材料になっているだろう。
■「石破政権は確信犯」と思われた
トランプ次期大統領は、共和党のマルコ・ルビオ上院議員を国務長官に、第1期政権で大統領補佐官を務めたピーター・ナバロ氏を大統領上級顧問に、共和党のデビッド・パデュー元上院議員を駐中国大使にそれぞれ指名するなど、対中外交の陣容を「対中強硬派」で固めている。
これに対して、石破政権がわざわざ1月20日の大統領就任式直前というタイミングを選んで、中国に媚びを売るような外相訪中を断行したとあっては、トランプ次期政権にケンカを売ったも同然だ。王氏と握手した際の岩屋氏の、いかにもうれしそうな微笑がそれを物語っている。
トランプ氏の政権移行チームは「石破政権は『確信犯』だ」と思ったのではないか。
こうなると、石破首相が就任式前にトランプ氏と会談できたとしても、成果は期待できない。むしろ、持論の「アジア版NATO(北大西洋条約機構)構想」を持ち出したりすれば、「どこまで日米同盟を中国に売り渡す気なのか」と、ガツンと一発やられる可能性すらある。
石破政権のヤバさは、いよいよ深刻になってきた。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。