米大統領選の投開票が行われた5日の夜(日本時間6日午後)、筆者は関西テレビの本社(大阪市)にいた。2つの番組に出演して開票速報をするためだ。開票作業が始まるタイミングで控室に入り、スタッフたちと開票状況を見ながら番組で解説をしていく手はずだった。
「史上最大の接戦」と言われたとおり、米メディアの出口調査を踏まえた開票速報も横一線に並んだ。日本の他局に出演しているコメンテーターは「接戦なので結果が出るまで数日かかる」「カマラ・ハリス副大統領の優位は変わらない」などと解説していた。
だが、筆者は「ドナルド・トランプ前大統領当確」を確信し、「トランプ氏勝利を前提でいきましょう」とスタッフに伝えた。トランプ陣営関係者から「勝利会見の準備を始めた」という連絡を受けたからだ。本番直前に慌ただしく、台本やパネルが書き換えられた。開票作業の序盤から「トランプ氏が勝つ可能性が高い」と解説した。
そして、米国で日付が替わった6日未明(日本時間6日午後)、トランプ氏はフロリダ州パームビーチで、支援者らを前にこう訴えた。
「米国がかつて見たことのない勝利だ。米国を再び偉大な国にする」
第47代大統領としての事実上の勝利宣言となった。再選を目指しながら落選し、再び大統領に返り咲いたのは132年ぶりで、史上2人目となる。
なぜ筆者は、トランプ氏当選を予測できたのか。
投票の行方を左右する「激戦7州」を一貫して調査、分析してきたからだ。中でも、最激戦州のペンシルベニアの動向をつぶさに追った。2016年の大統領選を取材したときに知り合った地元の両党関係者をはじめ、選挙コンサルティングの専門家らと意見交換を重ねた。
その結果、激戦州のハリス氏の票の動きが、16年時のヒラリー・クリントン候補よりも勢いが弱いことが分かり、早い段階から「トランプ優勢」を確信できたのだ。
筆者は、「トランプ氏当選」の可能性をいち早く言及した専門家の一人と自負している。2月に出版した『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)で、トランプ氏が当選した場合の「台湾有事」のシナリオを紹介した。
選挙戦序盤からテレビやラジオで、「もしトラ(もしもトランプ氏が勝ったら)」の可能性を指摘し、トランプ氏勝利を想定した準備を政府や企業が進めていく必要性を訴えてきた。10月20日に放送したBS朝日「日曜スクープ」では、選挙結果の見通しについて次のように分析した。
「このままの流れで行くと、トランプ氏が勝利する可能性が高まっているとみている。全国の支持率はハリス氏が上回っているが、勝敗を決めるのは激戦州がすべて。すべての激戦州でトランプが上回っているのは強い」
日本のメディアや専門家の論調をみると、「トランプ氏へのバイアス(偏見)」が強いと感じる。選挙分析には、私情や思い込みは排し、客観的なデータ解析と冷徹な情勢調査が必要なのだ。 (キヤノングローバル戦略研究所主任研究員・峯村健司)