梨園に不満を抱いていた市川雷蔵にとって、次期スター候補生を探していた大映から声がかかったのはおいしい話。気持ちが吹っ切れた雷蔵は連日映画館に通い、東映の大スター、中村錦之助(後の萬屋錦之助)の時代劇でセリフの言い回しや剣劇の作法などを研究したという。
「眠狂四郎」シリーズは晩年(といっても37歳で亡くなっているが)、一番脂の乗った時期に撮られた雷蔵の代名詞ともいえる。本作「―炎情剣」はシリーズ12本のうち第5弾。
鳥羽水軍の隠し財産を藤堂家が狙っているという物語。冒頭で、ぬい(中村玉緒)に助太刀して切った男が、死に際に「おぬしの恥だぞ」という言葉がラストでわかる仕掛けは鮮やかだ。
菩提寺での殺陣も見ものだ。最後はぬいさえもバッサリ切ってしまう冷血さ、いや正義感がにじみ出ている。
「私の顔に照り映える月の光がこの世の見納めだ」と雷蔵狂四郎にいわれたら、さぞかしゾッとすることだろう。
〝犯すもよし! 斬るもよし! 冷たく冴える非情の瞳、キラリと光ったその一瞬!〟
〝おとりと知りつつ炎の肌を抱き、非情の剣は見えざる強敵に飛ぶ〟
当時のキャッチコピーを見ると扇情的でありながら、非情なニヒルさを表す言葉が的を射ている。原作が柴田錬三郎の小説だけに一本筋が通っているのはさすがだ。肉体のわなに円月殺法が前作以上にさえる。
「中村珠緒の色香が印象に残った。美悪女ぶりがいい」「小手先のケレンを使わない潔さがよかった」「隠れキリシタンにシンパシーを感じる狂四郎は反幕府側?」と好評だったようだ。
第4弾「―女妖剣」でも毛利郁子、久保菜穂子、藤村志保、阿井三千子らが次々と白い肌を見せるが、ここでも江戸とチャンバラの組み合わせの妙が堪能できる。
実はこのシリーズ、最初の3作はあまりヒットせず、この状態が続くなら打ち切りだという話が持ち上がっていた。雷サマは、狂四郎の虚無感を演じることに苦戦したそうだからイマイチという評価はそのせいかも。しかし第4作目で開眼したのか、ヒットで継続が決まったのだった。 (望月苑巳)
■八代目市川雷蔵(はちだいめ・いちかわ・らいぞう) 俳優。1931年8月29日生まれ、京都市出身。60年代には勝新太郎とともに大映の二枚看板(カツライス)として活躍した。69年7月17日に死去。37歳の若さだった。
「市川雷蔵映画祭 刹那のきらめき」は27日~1月30日、東京・角川シネマ有楽町、大阪・シネ・ヌーヴォで全37作品を上映。