医師、弁護士と並ぶ「三大国家資格」といわれるのが公認会計士だ。CPAエクセレントパートナーズが運営する資格スクールは、合格者の約6割を占めるなど高い実績を誇る。だが、自身も学生時代に合格した国見健介代表取締役(46)が目指すのは、試験合格だけではない。会計に携わる「会計ファイナンス人材」の生涯支援を通じて、「人の可能性を広げ、人生を豊かにする応援をする」ことを志している。
――業務内容を教えてください
「CPA会計学院という公認会計士や米国の公認会計士試験のスクールを中心に、その先の転職や就職の支援など人材の事業というのが2つの柱です」
――公認会計士の合格者に占めるシェアが高いそうですね
「昨年は6割ぐらいですね」
――多くの合格者を出せる理由は
「一つは当然、優秀な講師であったり、受講生に寄り添う講師であったり、講義や教材の質が高いというところがまずあります」
――ほかにも合格率が高い条件はありますか
「実は受講生同士の仲がいい年代の方が合格率が高かったんですね。仲間同士で切磋琢磨(せっさたくま)し合うなど部活的な感覚ですね。とにかく受講生同士が仲良くなっていることがすごく大事というのがあります」
――受講生同士が仲良くなる仕組みを作ることも大事だと
「それは合格後の業界でのネットワークにもなりますね。先輩と後輩のつながりも重視しています。いま大学3年生までに会計士試験に受かった人に、チューターとして受講生のフォローをしてもらっています。先輩から『今の時期これぐらいやってた方がいいぞ』といったアドバイスを受けることも大事です」
――それはいいですね
「もう一つは学習の環境ですね。自習室がいっぱいで席の取り合いになるようでは安心して勉強できません。会計士試験の場合、テキストが何十冊もあるんですが、ロッカーの数が足りなくて使えないようでは不便です。こうしたところを一つずつ改善しています。長時間座っても疲れないような椅子にしたり、全校舎でWi―Fiをつなげてデータでも全部教材を見ることができるようにもしています」
――生涯支援の取り組みもしているそうですね
「試験に合格するまでサポートすることが中心なんですけど、仮に受からなくてもその先の就職についても支援しています」
――動画も積極的に配信していますね
「『CPAラーニング』という無料で学べるプラットフォームを運営しています。完全無料で簿記の3級、2級、1級のほか、経理や財務、税務、M&A(企業の合併・買収)とか、CFO(最高財務責任者)業務など実務的な内容も学べるように約1500本の動画を無料公開しています。会員も60万人ぐらいになっています」
――会計に関する人材の育成も大事だと考えているそうですね
「日本ではまだまだCFOやM&A部門の人材が欲しいと思っているはずです。海外の機関投資家の方から出資してもらえるように自社の未来をグローバル視点で語れるCFOはまだ少ないですね。会計の専門家として生きていくには困りませんが、そのスケールで収まってしまうと日本経済が停滞してしまいます」
――今後の課題は
「日本の場合、会計やファイナンスといえば、良くも悪くも『簿記』や『経理』というイメージが強いという面があります。統計学者や分析者が『データサイエンティスト』という言葉でイメージが変わりましたが、われわれも会計ファイナンス人材のイメージを変革させていきたいと考えています。かっこいいものだというイメージになれば、それを目指そうという人も増えてくると期待しています」
【会社メモ】公認会計士資格スクール「CPA会計学院」や完全無料のeラーニング「CPAラーニング」、会計ファイナンス人材特化型求人サイト「CPAジョブズ」、会計ファイナンス人材特化型転職エージェント「CPASSキャリア」、生涯支援プラットフォーム「CPASS」などを手がける。本社・東京。2001年設立。24年公認会計士試験の合格者数は973人で、合格者占有率は60・7%。従業員数306人(23年12月時点)。
実家の呉服店を継ぐため資格取得も…
【呉服店】実家は呉服店を営んでいる。大学3年時に公認会計士試験に合格したが、「後を継ぐために会計を知っておけと親に言われて渋々勉強したというのが本当のところです」と笑う。だが、会計士試験に合格後、家業は継がずに起業したという。
「当時は呉服に魅力を感じていなかったんですが、いまとなってみれば刺繍(ししゅう)や染めなど専門技術が詰まっていることなど、日本文化の発信という展開もあるなと思えますね」
【起業】きっかけは「値段が安いスクールを作れると思ったのが一番ですね」という。
「ただ、最初の頃はきれいごとを言う余裕はなくて、ひたすら無料体験とかセミナーなどのビラを駅前で配りまくりました。そうやって、一人ずつお客さまを迎えられて満足させてというところから始めました」
毎年の合格発表日はいまも緊張するという。
「受かった方への『おめでとう』とダメだった方がいたことで自分の無力感、ふがいなさを両方感じる日です」
【遠泳】中学まではサッカー少年だったが、高校時代の部活では遠泳に明け暮れた。
「慶応には水泳部葉山部門というマニアックな部活がありまして、外洋をどこまで遠くに泳げるかを追求していました。普段は高校のプールで練習して、夏休みと春休みは千葉県館山市で合宿します。海辺に木造平屋のエアコンもない合宿所があって、日の出から日の入りまで30キロから50キロの距離をひたすらクロールで泳ぎます。休憩も海の上で、並走する船から投げられたバナナを食べたり。口の中が塩だらけになるので、最後は氷砂糖を口の中で頰張れるだけ頰張って泳ぐんです」
遠泳の魅力について「部活の先輩である東京海上ホールディングスの永野毅会長が講演で話されていたんですが、葉山部門は毎年、今年の外洋はどこを泳ぐのかなど目標設定から自分たちに任されています。漁協や海上保安庁など利害関係者と調整して、コントロールできない天候や潮の流れにも対応する必要があり、みんなで力を合わせて目標を達成するというパーパス経営に通じるところがあると思います」
【家族】妻と中3、中1の息子2人。
【手帳】「スケジュールはグーグルカレンダーで全部管理していますが、紙の手帳は一覧できるのがいいですね。経営のアイデアや自分が大事にしている原理原則を書き留めています」
【ゴルフ】約2年半前から始めた。「やってみると、相手との関係が深まるものだと気づきました」。スコアは平均90ぐらいだという。
【座右の銘】《初志貫徹》「最も尊敬する経営者の松下幸之助さんの本にも『志を大事にしていく』と書いてあり、思いを強くしています」
国見健介(くにみ・けんすけ) 1978年9月生まれ、46歳。東京都出身、慶応義塾大学経済学部在学中の99年に公認会計士論文式試験合格。大学卒業後の2001年9月にCPAエクセレントパートナーズを設立し代表取締役就任、03年1月公認会計士登録。
ペン・中田達也/カメラ・鴨志田拓海/レイアウト・吉村剛