新たな地域ブランドを生み出す取り組みは、地方創生に欠かせません。私も30年以上、全国各地で地域ブランド作りに奔走してきました。
その経験から得た〝成功するポイント〟は、地域課題を解決に導くソリューションの創造だと確信しています。なぜなら、地域の人々に支持され、やがて地域ブランドへ進化するからです。
たとえば、奈良県は全国有数の国際観光都市ですが、グルメに乏しいイメージが拭えず「奈良にうまいもんなし」と長年、揶揄(やゆ)され続けてきました。この課題を解決するために、これまで多くの人々が自慢のグルメを作っては懸命なPRを繰り返してきましたが、いまだイメージの一新には至っていません。
しかし奈良県唯一の酒類卸「泉屋」社長、今西栄策さんが取り組む「奈良ブランド酒」の開発プロジェクトは一味違います。卸業ならではのネットワークを生かして地域の人々を巻き込み、誰もが利益を得るwin―winの仕組みを生み出しているからです。
そのために今西さんは奈良発祥と伝わる日本酒はもちろん、ワインやビールなどあらゆる酒の原料に奈良の食材を使うことで「奈良ブランド酒」をプロデュースしてきました。生産者から小売店まで幅広いネットワークを持つ卸業だからこそ可能なプロジェクトと言えるでしょう。
そして今年は「奈良のご当地ウイスキー」にもチャレンジ。奈良の美しい水に魅せられたトルコ人の経営者、シャカールさんが奈良県宇陀郡曽禰村に蒸留所を作ったと知って手を組み、奈良ブランドウイスキーをつくり始めたのです。
ただ、ウイスキーの蒸溜には3年以上の年月が必要です。そこで今西さんは、その間にウイスキーの流通経路を作ろうと「鎧岳ウイスキー」と名付けた奈良ブランドウイスキーを企画し、先行発売を始めました。これは、シャカールさんが見込んだウイスキーに曽禰村の山の名前を冠したものですが、流通経路を整える役目は十分に果たせそうです。
「いつかきっと、世界中の人々に〝奈良にうまい酒あり〟と言わせてみせます」と意気込む今西さん。ちなみに彼は西郷隆盛の子孫だそう。時代を変えるDNAが今、奈良で新たな地域ブランドを生み出しています。
「令和を変える 関西の発想力」。長い間、ご愛読いただきありがとうございました。これまで紹介した関西の知恵や発想法が皆さまの人生に役立つことを願っています。(地域ブランド戦略家・殿村美樹) =おわり