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ぴいぷる 画家・吉野祥江 「悪」を食べちゃう華ヤギのエネルギーを感じてほしい 夫・ミッキー吉野のゴダイゴに影響され

zakzak by夕刊フジ 2025年1月15日 6時30分

絵を描く。それが今やるべきこと。コロナ禍のなかで、考えられることはひとつだけだった。

「世界中の人々が予想もしていなかった災いに見舞われて、乗り越えられずに、同じものに怯えている。画家としてできることは、世界が恐怖を共有している今だからこそ絵を描いておく。それしかありませんでした」

描きためたテーマはヤギ。イメージは以前からあったが、コロナ禍を通して具象化した。

「特に難しいイメージではありません。ヤギは紙を食べるから、世界中の悪いドキュメント、意地悪なメールとか手紙とかを食べてもらいたい。西洋ではどちらかといえば羊がいいイメージで、ヤギは悪魔とか悪いイメージがあるかもしれません。その悪い印象も食べてもらいたい。2017年くらいからふわっと思いついたものですが、コロナ禍を経て、今ではライフワークといえるまでになっています」

人種や宗教の壁を取り払った多様な世界の象徴としても描いた。

「シロヤギ、クロヤギ、茶ヤギ、どんなヤギでも種別や毛色に関係なく、ずっと仲良くしています。主人(ミッキー吉野)のゴダイゴに影響されたところもあると思います。ゴダイゴは結成から50年経ちますが、国や宗教が違っていても仲がいい。私にとって多様性の象徴といえるんです。それらがすべて当てはまったのがヤギなんです」

2月12日(水)から18日(火)まで玉川高島屋本館1階Tステージで行われる『吉野祥江展 ―ヤギ Loves it!―』は、会場がヤギで埋め尽くされる。油絵40点、8体のオブジェを出品する予定だ。

「ヤギでいっぱいの〝ヤギまつり〟。高島屋のあちこちにヤギを置きます。展示は画廊ではなく1階のポップアップスペースなので、広々とみなさんに楽しんでいただけます」

国内での個展は2021年12月、うすい百貨店(福島県郡山)以来。2023年からは本格的にアメリカに挑み、『ArtExpo New York 2023』(3~4月)で〝Best Booth Design賞〟、『Red Dot Miami 2023』(12月)で〝Best International Exhibitor賞〟、『Art San Diego 2024』(11月)でも〝Best International Exhibitor賞〟を受賞した。ほか『ArtExpo New York 2024』(4月)にも出展している。

「初めてアメリカに挑戦したのは2019年1月の『LA Art Show』。そのあとコロナで中断しましたが、一昨年からまた挑戦し始めました。日本は絵画に対して独自のシステムができていて、そのルートを通らなければ有名にはなれません。それ以外のルートがあるとすれば海外で認められることです。海外で注目された人が逆輸入される形で評価されるケースが多いんです」

アメリカでは壮大なエネルギーをもらった。常識にとらわれないダイナミズムな作品が求められていて、自由があった。

「とにかく感じるのは作家のエネルギー。ダイナミックなものが好きなんです。オブジェとかも日本よりわかってもらえます。最近の絵画は現代アート寄りになっているので、アクリルとか新しい素材が多いのですが、私は自分の手で油絵を描きます。それがかえって新鮮にも映るみたいですね。油絵のクラシカルな伝統を守りつつ、独創的なものを描く。そこに言いたいことが伝わるようにメッセージを乗せるんです」

アメリカで賞を3つもらったので今年は欧州、ロンドンの名門Saatchi ギャラリーで展示予定だ。その前に貴重な日本での展覧会となるのが『吉野祥江展』。

「会場に来て、ぜひともアメリカでもらってきたものすごいエネルギーを感じてもらいたい。たとえ作品が好きでなくても、エネルギーを感じて元気になってほしいんです。人が集まることには理由があって、そこにエネルギーがあるからなんです。世界は本当にすごいスケール感で、お金も場所も規模が違う。それだけ作家のエネルギーやパッションをみんなが見たがっているんです」

世界がどんどんと近づいてきている。

「個人での限界も見えてきたので、チームで戦略を練り直して挑みたいです。賞をもらって評価をされたさらにその上を行きたい。顧客を持っている方たちや、オークションに作品がかかっている方たちは、今の私とはまったく違う状況のすごい世界にいます。そこに入っていきたいですね」

夢を支えてくれるヤギたちとなら、かなえられはずだ。

■吉野祥江(よしの・さちえ) 1971年1月18日生まれ、53歳、東京都出身。2003年に韓国・引益大学絵画科に入学し、05年に成績優秀奨学生として仏パリ国立美術学校に交換留学。07年に引益大を卒業し帰国。同年3月のゴダイゴ『新創世紀』コンサートに作品を提供し、10月にキーボードのミッキー吉野と結婚。08年に麻布十番で初個展。15年にモダンアート展優秀賞受賞。19年『LA Art Show』、23年『ArtExpo New York』、『Red Dot Miami』、24年『ArtExpo New York』、『Art San Diego』に出展。日本美術家連盟会員。

ペン・秋谷哲 カメラ・中村光江

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