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八木秀次 突破する日本 「台湾有事は日本有事」の戦略的発想が理解できない石破氏 主張を否定も支離滅裂、安倍元首相へのルサンチマン(恨み)か 

zakzak by夕刊フジ 2024年8月19日 6時30分

「台湾有事は日本有事」と安倍晋三元首相が主張していたのは、単に日本が中国の台湾侵攻に巻き込まれるということではなかった。台湾は民主主義国家の普遍的価値観を共有する事実上の国家であり、その主権を踏みにじることは民主主義国家の普遍的価値の否定に等しい。

台湾有事は権威主義国家に対峙(たいじ)すべく「民主主義国家の普遍的価値の普及」を主唱し、結束を呼び掛けている日本の問題でもあり、ともに中国の軍事的脅威をはね付けようということだ。大きな世界戦略の中で、台湾の存在を守ろうという趣旨だ。

この辺りの戦略的発想が理解できない人がいる。自民党総裁選出馬への意欲を示す石破茂元幹事長は典型だ。

石破氏の近著『保守政治家 わが政策、わが天命』(倉重篤郎編、講談社)はインタビューをまとめたものだが、安倍晋三元首相へのルサンチマン(恨み)か、全体として安倍氏の政策をことごとく否定している。

「保守とはリベラルのことである」と題する章もあるが、カラスを鷺(サギ)と言いくるめる論法だ。同性婚法制化を主張し、メディアでは女系天皇容認や夫婦別姓導入の主張を繰り返している。

同書に台湾有事への言及がある。

「中国の軍事的圧力が強まっていることをもって、台湾有事が高まっている、という説があります。そして『台湾有事は日本有事である』と、ことさらに取り上げられることもあります」―。

「ことさらに」とは、「わざと」「故意に」との意味だ。悪意がうかがえる。

そのうえで、「仮に中国が台湾に軍事的な攻撃をする状況になったとします。その際に、文字通り日本本土も同時に攻撃する、という状況は、冷静に考えればほぼありえないでしょう」「仮に中国が台湾を攻撃したとしても、そこで日本まで攻撃してしまえば、直ちに日米同盟を敵に回すことになります」「つまり、文字通り『台湾有事、即日本有事』となる可能性は相当低いということです」と、明示はないが安倍氏の主張を否定する。

そう言いながら、「一方、中国が台湾に武力攻撃を行い、米国がこれに反撃する状況となれば、アジア有数の戦略拠点である在日米軍基地もフル稼働となるでしょう」「そうなれば、日本は中国から直接の脅迫、あるいは武力行使を受けることになる可能性があります」と述べる。

「台湾有事は日本有事」を否定しながら、結局は日本有事となるという。支離滅裂だが、安倍氏を否定したいだけではないか。普遍的価値への言及もない。戦略的発想の欠如を露呈した格好だ。

岸田文雄首相は14日、来月の自民党総裁選への不出馬を表明した。この内外の難局に、石破氏ではおぼつかないことだけは確かなようだ。 =おわり

■八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒業、同大学院政治学研究科博士後期課程研究指導認定退学。専攻は憲法学。第2回正論新風賞受賞。高崎経済大学教授などを経て現在、麗澤大学教授。山本七平賞選考委員など。安倍・菅内閣で首相諮問機関・教育再生実行会議の有識者委員を務めた。法務省・法制審議会民法(相続関係)部会委員、フジテレビジョン番組審議委員も歴任。著書に『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)など多数。

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