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日本の解き方 政治家が「緊縮」主張する理由 官僚の言いなりマスコミと学者が作った「財政規律」の世論 最近は財務省の手に乗らない若手も

zakzak by夕刊フジ 2024年9月11日 11時0分

自民党総裁選では、石破茂元幹事長が「金融所得課税の強化」を、河野太郎デジタル相は「財政規律」を強調している。茂木敏充幹事長は「増税ゼロ」と発言してはいるが、緊縮財政や金融引き締めを好む政治家が多いのはなぜだろうか。

昭和の時代は、高度経済成長をしていたので、政治家は「財政」をそれほど意識しなくても、「使う人」でいられた。当時の政治家で、財政規律を主張する人はあまりいなかった。

平成になってから、成長がガタンと落ちた。この要因は、金融引き締めと、緊縮財政による公共投資不足であるが、官僚たちはそこに触れずに「財政規律」を言い出した。その際、政治家に対して「財政規律を言わずに財政支出を言う人は無責任」というレッテルを貼った。

官僚はマスコミにもそうした説明をしたので、「財政規律を言わない政治家は無責任」というイメージが広がった。また、徹底して学者の取り込みを図ったので、平成になってからの成長鈍化という、学者にとっては興味深い研究課題をまともに取り扱う人は少なく、官僚の言いなりになる御用学者が跋扈(ばっこ)し、世の中は官僚主導で進んだ。

外から見ても分かりやすい金融政策では、海外の著名な経済学者から、日本の金融政策はおかしいと批判された。それでも、安倍晋三政権のアベノミクスが始まるまでは「日銀は正しい」というのが通説だった。

こうしたマスコミと学者が作り出した世論を、政治家も意識せざるを得ず、平成年代の政治家には、財政規律を主張することで責任ある人というイメージを持ちたい人が多くいる。

もし平成の初期からインフレ目標が導入されていたら、インフレ率が2~3%なのに引き締めた平成前期の金融政策は誤りだと分かっただろう。

また、公共投資の費用と便益を分析する際に使う「社会的割引率」(将来価値を現在価値に割り引く比率)を異様に高い「4%」とすることで公共投資を抑制した緊縮財政も、世界の先進国と比較すればおかしいのは明白だった。

筆者は、世界標準の金融政策や、正しい財政状況の見方をしたうえで、政策を実行すればいいという立場だ。その意味で、金融を引き締めるか緩和するかはインフレの状況、すなわち雇用の状況に依存する。財政を正しく把握するという意味では財政規律にも配慮するし、無責任な財政出動にはくみしない。

安倍元首相は筆者の立場を最も理解してくれた政治家だ。しかし、安倍氏は例外であり、多くの政治家は「無駄な財政支出を主張する無責任な人」とのイメージを嫌がり、「財政規律」を主張して、ちょっと賢い人と思われたがっている。

筆者は、決して「緊縮や引き締めのDNA」が政治家にあるとは思っていない。財務省に言いくるめられる政治家が多いだけだろう。ただし、「財政が悪いので増税しないと国債が暴落する」など分かりやすい噓をつき、ことごとくはずれているので、最近の若手政治家には財務省の手に乗らないという人が多くなっている。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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