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トップ直撃 環境課題の解決が使命 防災の要「無線通信」などエレクトロニクス関連事業の会社へと変化 日清紡ホールディングス・村上雅洋社長

zakzak by夕刊フジ 2024年10月1日 6時30分

日清紡ホールディングスは繊維の会社としてスタートし、2000年代に入り社会環境の変化に伴う事業ポートフォリオの変革を目的にM&A(企業の合併・買収)やカーブアウト(事業の切り離し)を重ねた。そして現在、無線・通信事業やマイクロデバイス事業を核としたエレクトロニクス関連事業の会社へと変化した。今年、同関連事業の売上構成比率は60%を超える見通しだ。村上雅洋社長(66)は「今後もM&Aを含めた成長投資を積極的に行っていく」と話す。

――日清紡ホールディングスの使命をお聞かせください

「今、社会が直面している環境破壊と地球温暖化という問題に『挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。』という企業理念の下、ソリューションを提供していくことです。気候変動による災害には防災無線やセンサーネットワークを提供し、人々の命を守ります。またAI(人工知能)と連携した通信システムやマイクロデバイス、ブレーキ摩擦材など環境素材を提供し、環境課題の解決に取り組んでいます」

――防災システムはどのようなものですか

「災害時は、住民に必要な情報が迅速に、正確に伝わることが重要です。日清紡グループでは、デジタル通信技術を生かした防災無線システムを開発し、人々が安心・安全に暮らせる環境づくりに貢献しています。防災システムの根幹の無線通信技術を、太陽光やバイオマスガス、風力などの自然エネルギーで発電した電力情報の収集・伝達に活用することで、環境にやさしい電力を無駄なく、安定的に運用し、CO2低減にも結び付いています」

――マリンシステムについては

「過酷な気象・海洋条件下で航海するため、海上通信をはじめとしたさまざまな機器や、安全かつ経済的に船舶を運航する航法システム、海上交通を管理・支援する港湾管理レーダーなどを開発し、『海の情報化』を推進しています」

――ブレーキ事業も強化しています

「ブレーキ摩擦材の開発力、シェアは世界トップクラスです。さまざまな条件下で、優れた制動力や性能安定性、耐久性、心地よい制動フィーリングを実現する商品をそろえています。摩擦材に含まれる銅が水質汚染の原因とされ、使用量が規制されていますが、環境規制にいち早く対応し、銅フリー摩擦材の供給を始め、今では世界のトップランナーです」

――昨年末、日立国際電気を連結子会社化しました

「無線・通信事業はグループ会社の日本無線を中核として、防災システム、監視制御システムや船舶・自動車などの通信機器を展開してきました。日立国際電気の子会社化は、DX(デジタルトランスフォーメーション)需要などで成長が期待できる無線・通信事業のさらなる強化が目的です。高速通信と親和性の高い映像技術を得たことで、市場領域と技術領域の拡大を目指します」

――欧州のブレーキ摩擦材メーカー、TMD社(本社・ルクセンブルグ)を譲渡した背景は

「2011年にTMDを傘下に収め、世界トップの市場シェアを獲得しました。その後、自動車のxEV(電動車)化や、欧州の新たな環境規制『EURO7』など市場環境が大きく変わりました。このような状況下、TMDが欧州で成長していくためには、自動車業界での経験と事業改革のノウハウを持つ企業の傘下で持続的な発展と成長を目指すことが最良と判断し、譲渡しました」

――テレビCM『ネコ篇』を展開中です

「『日清紡~♪名前は知ってるけど~』の歌詞で始まるテレビCMは2012年、『犬の二人羽織』からスタートしました。若者からの知名度を上げようとリクルートを意識して始めましたが、イメージアップに結び付いています」

――ビジネスの「変革」についてどうお考えですか

「企業にとって大事なことは常に変化することです。変化は呼吸と同じくらい自然なことで、人や組織が成長している証しです。一時的に安定を失うこともありますが、型にはまったやり方や、時代遅れの価値観などを除くことにつながると考えればよいと思っています」

【滋賀大学】入学当初、大阪市内の実家からの通学を考えていたが、場所を確認すると彦根市内で、新幹線の米原駅寄りだったため、下宿生活を送ることになった。下宿生活や部活を通じて多くの仲間ができた。卒業から40年以上が経った今も、「年に数回は会い、昔話や健康の話などで話題が尽きません」。

【紡績工場】入社後しばらくは浜松(静岡県)、島田(同)、岡崎(愛知県)などの紡績工場に勤務し、労務管理業務を担った。主要業務は、女性社員らをさまざまな面でサポートすることだった。当時、工場では15歳から22、23歳の女性社員約400人が寮生活を送り、工場内の付属学園に通い勉学に励む社員もいた。「皆さん、よく働き、よく学びました。仕事と学業が両立できるよう、私も全力でサポートしました。良い思い出です」

【「先生」】女性社員が通う付属学園では年1回「学園祭」が開催され、各種イベントや作品展、模擬店などで多くの社員が楽しんだ。こうしたイベントをきっかけに男性社員からも「先生」と呼ばれるようになる。今も出張で工場へ行くと、当時のメンバーが「先生!」と声をかけてくるという。「照れくさいですが、それに応えています」

【家族】妻、息子、娘の4人家族。娘は仕事の関係で実家から離れて暮らす。IT関連企業に勤務する息子は同居。たまに部屋をのぞくと、多くのIT機器が設置されていることに驚かされる。「操作を聞いても用語自体が理解できないと思います。次元の違いを感じます」

【スポーツ】中学、高校時代はバスケットボール、大学ではハンドボールで心と体を鍛えた。いまは毎朝のジョギングで体力の維持に努めている。「四季を感じながら楽しく走っています」

【パソコン】土・日曜日も仕事の問い合わせなどメールが頻繫に入ってくる。考えが新鮮なうちに回答を入力するが、送信するのは月曜日の朝と決めている。その時に返信すると、相手の仕事が始まってしまうからだ。「週末はやはりゆっくりと休み、英気を養ってほしいと思っているためです」

【社員へひと言】「発想は大胆に、仕事は繊細に」。人は理屈で動かない。なるほどと思って初めて人は動く。成功するかどうかはメンバーが本当に納得しているかどうかだという。「志や目標を高いところに置けば、人生退屈している暇はありません」

【会社メモ】1907年、日清紡績として創業。2009年現商号に変更する。デジタル社会の発展など事業環境の変化に対し、「つなげる技術で価値を創る」姿を目指し、センシング・無線通信・情報処理技術で社会課題へのソリューションを提供していく。2023年12月期の連結売上高5412億円。連結従業員数1万9416人(23年12月時点)。

■村上雅洋(むらかみ・まさひろ) 1958年9月生まれ、66歳。大阪市出身。82年滋賀大学経済学部卒。日清紡績(現日清紡ホールディングス)入社。2007年総務本部秘書部長、08年執行役員経営戦略センターコーポレートガバナンス室長。10年取締役執行役員事業支援センター長、12年取締役常務執行役員経営戦略センター副センター長、16年代表取締役専務執行役員を経て、19年代表取締役社長に就任する。

ペン/危機管理・広報コンサルタント 山本ヒロ子 カメラ/寺河内美奈 レイアウト/太田丈晴

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