石破茂首相に、衆院本会議場での「居眠り」疑惑が直撃した。衆院選を受けた特別国会が11日召集され、首相指名選挙の1回目投票が行われた際、目をつぶったまま下を向いて動かない状態が数分間も続いたのだ。周囲の閣僚や自民党幹部が険しい表情で見つめる姿まで世界に配信された。先の衆院選で大惨敗を喫しながら、「政権居座り」を決め込む石破首相には、新聞各紙も12日の社説で「憲政の常道に反する」などと厳しい指摘をしている。石破首相は第2次内閣発足にあたって政治改革に意欲を示したが、政治基盤が弱い少数与党の緊張感を持っているのか。米大統領選で圧勝したドナルド・トランプ次期大統領との関係構築にも懸念が広がっている。
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「深夜まで多忙を極める毎日を送っているが、本日は風邪気味で風邪薬を服用していたと聞いている」「風邪気味であることを除けば、健康状態に何ら問題はない」
林芳正官房長官は11日夜の記者会見で、石破首相の「居眠り」疑惑について聞かれ、こう語った。苦しい釈明に聞こえた。
国会では過去にも、議員らの居眠りがたびたび批判されてきた。だが、「国民生活に直結する国政のかじ取りを担い、有事は自衛隊の最高指揮官となる首相を選ぶ指名選挙で、候補者本人が居眠りしていたとするなら前代未聞の事態」(ベテラン議員)だ。
問題のシーンは、衆院本会議場での1回目投票時に起きた。
石破首相は投票のために移動した議員席に深く座り、腕を組んでうつむき、しばらく目をつぶり続けたのだ。異変に気付いたのか、隣席の林氏は戸惑ったように石破首相を見つめ、少し離れた席の麻生太郎元首相は険しい表情で首をかしげた。誰も声をかけないあたりに、石破首相の孤立を感じさせた。
衆院選で、自ら勝敗ラインとした「自公与党で過半数」を大きく割り込みながら、石破首相は何も責任を取らなかった。政権運営に暗雲が垂れ込み、場合によっては「与野党逆転」が起こり得る緊張感も広がっていた。
野党第1党の立憲民主党は「政権交代」を目指して、首相指名選挙で野田佳彦代表への野党各党の支持集約を求めた。ただ、外交・安全保障論で隔たりのある日本維新の会は馬場伸幸代表に、「対決より解決」を掲げる国民民主党は玉木雄一郎代表に投票したため、結果的に多数を獲得した石破首相が再任された。
それだけに、自身が対象となった首相指名選挙で緊張感を欠いたような姿勢に、永田町では怒りとあきれの声が広がっている。
報道各社の論調も厳しさを増している。
産経新聞は12日の主張(社説)で、「国民の信を得られなかったにもかかわらず石破首相も森山裕幹事長も責任を取って辞任することはなかった。憲政の筋を踏まえない首相続投は残念」と切り捨てた。
読売新聞も同日の社説で、「国民の代表で国権の最高機関である国会の決定は尊重されなければならないが、憲政の常道に反するような無理押しの体制では、国政の混乱が長期化しかねない」と断じている。
鈴木哲夫氏「今後は厳しい政局」
石破首相の「居眠り」疑惑は速報され、ネット上にも「日本は大丈夫なのか」「舐め切っている」「『だらし内閣』にもほどがある」などと厳しい声が次々と書き込まれた。
こうしたなか、石破首相は第2次内閣発足を受けた11日夜の記者会見で、党の処分が済んでいるにもかかわらず、自ら衆院選の争点にして大惨敗を招いた「政治とカネ」の問題を再び持ち出した。
石破首相は、派閥裏金事件をめぐり、関与が指摘された議員について、「各々が説明責任を果たすため、政倫審(政治倫理審査会)を含め、あらゆる場を積極的に活用するように促す」とブチ上げたのだ。
先の通常国会で、政治資金収支報告書への不記載が指摘された議員のなかで、政倫審での弁明をしなかった議員もいるが、4月の時点で党の処分は終わっている。
ある自民党中堅議員は「自らの政治責任は棚に上げ、得意技のように『政治とカネ』の問題を持ち出すのは見苦しい。石破首相は『アジア版NATO(北大西洋条約機構)構想』など持論を引っ込め、肝心の政策論争は一歩も進まず、何がやりたいのかさっぱり分からない」と指摘する。
自らへの大逆風を、いわゆる〝裏金議員〟を生贄(いけにえ)に差し出して乗り切ろうとしているようにも見えるが、石破首相の姿勢をどう見るか。
ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「総裁選で自民党は『選挙に勝てる顔』として石破首相を新総裁に選んだ。だが、国会での熟議を行わないまま、早期解散した衆院選で大敗した。内閣支持率や自民党支持率は落ち込み、自民党内でも『石破首相でいいのか』との疑問が急速に広がっている。来年の参院選に向けて1年の猶予もなく、『石破降ろし』の機運が急速に高まってもおかしくはない。自公与党が過半数に満たないのは厳しい現実だ。今後は厳しい政局を迎えるだろう」と指摘した。