1日に公開された映画「スマホを落としただけなのに―最終章―ファイナルハッキングゲーム」(中田秀夫監督)。そのタイトルに偽りありだ(あくまでもしゃれです)。
なぜなら、映画の登場人物は、誰一人としてスマホを落とさない。つまり手元からスマホがなくなることはないのである。それでいながら、スマホの情報がすべて抜き取られるという恐怖。偏執的に心を寄せる人が、誰とどんな会話をLINEでやり取りしているのか、それがリアルタイムで赤の他人にのぞかれているのだ。
情報はすべて抜き取られている。だがそのことを当事者が気づいていないことが、落としていないスマホの情報流出の怖さなのである。
天才的ブラックハッカーで連続殺人鬼の浦野(成田凌)と、因縁浅からぬ内閣府に出向している刑事の加賀谷(千葉雄大)の追跡劇が、映画の基軸になっている。日韓首脳会談を控え、神経をピリピリさせている日本政府をあざ笑うかのように、テロ行為が仕掛けられる。ロケットが日本に打ち込まれる。しかも狙われた場所は、警視総監が警備の下見に出向いたホテル。
ロケットがホテルを直撃し、黒煙が上がるが…それらがフェイク画像であることを加賀谷が見抜き、そんなことができる人物は浦野しかいないと確信する。
浦野を演じる成田の猟奇的演技の不気味さ。これまでのシリーズ2作を通しても際立っていたが、3作目でさらに炸裂(さくれつ)。とらえどころのない恐怖をまとった人物を、薄暗く演じている。
登場人物の出自に踏み込んだ人物描写と性格形成、反政府組織のおきてと粛清、浦野の日常をサポートする黒髪の女性・スミン(クォン・ウンビ)の生い立ちと浦野との関係性、政府内部に巣くうスパイの存在など、これでもかという緊迫感で、中田監督がスリリングな映像を投げ込む。
映画の資料には「家族や恋人よりもあなたのことを知っている存在、それはスマホです」とある。自分の日常や飲食の好み、性趣向などはすべてスマホに刻まれているという現実。情報を操れる切れ者の悪党に狙われたら、自分の情報など簡単に抜き取られるという怖さをヒリヒリ感じながら、映画館を後にした。 (演芸評論家・エンタメライター)
■渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう) 新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクを経て演芸評論家・エンタメライターに。文化庁芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。