佐賀大学医学部小児科、垣内俊彦診療准教授
子どもに多く、夏かぜと呼ばれる手足口病の流行が11月になってもおさまらない。新型コロナの変異株やインフルエンザなど、これから流行が予想される冬の感染症も重なる時期に突入した。いま、改めて感染症に負けない体をつくる方法を小児科専門医に聞いた。
小児科専門医に聞く
「感染症には季節性のあるものも多いのですが、その季節性が失われつつあります」と話すのは佐賀大学医学部小児科の垣内俊彦診療准教授。
「理由の一つに<免疫負債>があると考えられます。コロナ禍で感染対策をきちっとやりすぎたことにより、それまでは身につけられていたはずのさまざまな病原体に対する免疫を獲得できていない状態が、集団免疫の低下を招き、流行につながっていると考えられます」
気候変動も影響していると考えられる。「今年は10月に入っても夏日があるなど、暑い期間が長く続いたことから、体に疲労が残っている可能性もあります。さらに、本来であれば徐々に寒さが訪れるはずが、突然気温が下がることで寒冷順化が難しく、自律神経の乱れ、ひいては免疫力の低下を引き起こしやすい状況といえるでしょう」
その他、生活環境の変化などを含めた複合的な原因が、集団および個人の「感染症ドミノ」の状況をつくっていると垣内准教授は話す。
「集団での感染症ドミノとは、集団で今までより数多くの患者が発生することを指します。以前なら一人、二人と感染者が現れても、ある程度の人数にその感染症の免疫が備わっていれば感染の広がりが抑えられたり、広がってもスピードはゆっくりであったりすることが多かったのですが、未感染者が増えると感染者が一気に拡大します」
同一の患者が短期間に複数回感染してしまう、個人の感染症ドミノの原因は何か。
「感染後、免疫機能が回復する前にすぐに集団生活に戻るためです。手足口病にかかったと思ったら、インフルエンザにかかってしまう、といった感染症ドミノはお子さんが陥りやすいですが、そこから親御さんにうつってしまう家庭内のドミノもよくみられます」
こうしたドミノを、自分も周囲にも倒させないために、感染症対策は必須となる。垣内診療准教授は、まずはワクチンのあるものは接種の検討をしてほしいと呼びかける。
「たとえばインフルエンザは、感染後に意識障害やけいれん、異常言動・行動などの症状を引き起こすインフルエンザ脳症になる可能性があります。命は助かっても後遺症を残して寝たきりになる方もいらっしゃる。このような重症化予防のために、ワクチンの接種を検討してほしいと思います」
感染症対策は、外からウイルスや菌を入れない「外的要因に対する対策」と、免疫機能の維持・低下させないための「内的要因に対する対策」がある。
「外的要因対策としては、うがい、手洗い、マスク、歯みがき(口腔ケア)、タオルの供用を避ける、人混みを極力避けることが大切です。そしてさらに大事なのは、内的要因の対策です。生活リズムを一定にして自律神経を整えたり、腸内環境を整えることが大切。とくに、免疫を担う細胞の70%が腸に存在するので、乳酸や短鎖脂肪酸といった、健康に欠かせない成分をつくる、いわゆる善玉菌を増やすことが大切です」
善玉菌は、発酵食品や乳酸菌などを摂取して直接増やす方法と、水溶性食物繊維やオリゴ糖などの、善玉菌のエサになるものを摂取することで育てる方法がある。
「以前、佐賀県有田町の小中学生が特定のヨーグルトを継続的に摂ったところ、周辺の自治体とくらべてインフルエンザの感染率が低く抑えられたという結果が話題になりました。小児消化器が専門の私も、ヨーグルトや発酵食品、食物繊維などを日常的に摂ることはおすすめです」