訪日ブーム再来によるオーバーツーリズムが問題視されるなか、緩和策として各業態で導入が検討されている外国人特別料金。「外国人差別につながる」という批判もあるが、必ずしもそうとは言えないことは、過去2回で述べたとおりだ。
だからといって、ありとあらゆる現場に外国人特別料金を積極採用しようという案には賛成できない。
海外旅行の醍醐味のひとつは、現地に溶け込んだかのような錯覚に陥る瞬間だ。地元民でにぎわう大衆食堂やバーの片隅に身を置き、特に何の特別扱いも受けずにほったらかしにされたとき、まるでその土地にずっといたかのような気分に浸れる。
近年、日本を訪れる外国人観光客の一部が、いわゆるコテコテの観光スポットから、目立った観光資産のない、ごく〝普通〟の地方都市や村落に移る傾向にあることをみても、そうした醍醐味を求めているのだろうと感じる。
二重価格が各所で採用されれば、外国人観光客はありとあらゆる場所で自身がよそ者であることを痛感することになる。それは日本旅行の魅力をそぐことにもつながりかねない。見かけで外国人観光客と判断されやすい在日外国人も、身分証明のために不便を強いられることになる。
日本人客にとっての危惧もある。
二重価格が導入されれば、客単価の良い外国人観光客を歓迎する事業者が増えてくる可能性がある。飲食店や宿泊施設における外国人観光客の接客コストは、時間や経験とともに逓減していくと考えられる。だが、なおも二重価格が設定され続けるとすれば、日本人の予約よりも外国人観光客の予約を優先させる動きが事業者に現れることが考えられ、日本人にとっての利便性が損なわれかねない。
「日本人お断り」そんな店やホテルが国内で出現することも、あり得ない話ではないのだ。 =この項おわり
外国人材の受け入れ拡大や訪日旅行ブームにより、急速に多国籍化が進むニッポン。外国人犯罪が増加する一方で、排外的な言説の横行など種々の摩擦も起きている。「多文化共生」は聞くも白々しく、欧米の移民国家のように「人種のるつぼ」の形成に向かう様子もない。むしろ日本の中に出自ごとの「異邦」が無数に形成され、それぞれがその境界の中で生きているイメージだ。しかしそれは日本人も同じこと。境界の向こうでは、われわれもまた異邦人(エイリアンズ)なのだ。
■奥窪優木(おくくぼ・ゆうき) 1980年、愛媛県出身。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国で現地取材。2008年に帰国後、「国家の政策や国際的事象が、末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに取材活動。16年「週刊SPA!」で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論され、健康保険法等の改正につながった。新著「転売ヤー 闇の経済学」(新潮社)が話題。