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マネー秘宝館 遠くへの越境学習がイノベーションを生む 通常交わらない「会計」と「音楽や絵画」分野を重ねベストセラーになった「会計の世界史」

zakzak by夕刊フジ 2024年8月28日 15時30分

親愛なる読者の皆さまに新刊発売のお知らせです。拙著「マンガ 会計の世界史」(日経ビジネス人文庫)が発売になりました。以前発刊した単行本の文庫化です。

ここに至るまでに私が経験した「意図せざるイノベーション」体験についてご紹介させてください。

始まりは2018年に「会計の世界史」を出版したことでした。本書で私は会計という「必要だけど退屈」な分野を歴史的に表現しました。簿記にも決算書にも原価計算にも「歴史」があります。ほとんどのビジネスマンはそれを知りません。減価償却がなぜイギリス生まれなのか、原価計算がどんな事情でアメリカで誕生したかを知りません。そのすべてに「へえ~」という誕生秘話があるというのに。

そこで私はこれら会計制度や経営の歴史を「人間ドラマ」仕立てで表現しようと思いました。ストーリーのなかにダ・ヴィンチやレンブラント、ターナーといった画家たちを取り上げたのです。

「絵画を使って会計や経営の成り立ちを説明する」のは、われながら荒唐無稽な思いつきでしたが、それを何とかカタチにできたのが「会計の世界史」です。おかげさまで発売直後から売れ行き好調、会計書としては異例の10万部を超えるヒットとなり、海外諸国から翻訳オファーもたくさんいただきました。

海外でも読まれた好調の裏には「大きな目で歴史を捉えよう」とするグローバル・ヒストリーの流行がありました。それが「会計とアートを掛け合わせた本」への追い風となったように思います。その後の2013年にはマンガ版が発行され、こちらは世界史受験生たちを含む若者たちにも愛読されました。

本書がきっかけとなってNHKラジオ歴史番組やテレビ特番のオファー、企業からは研修にお招きいただくなど、私にとって「仕事の幅が広がる」1冊となりました。本当にありがたい限りです。

改めてこの身に余る幸せを振り返るに、これは「会計」という堅苦しいわが専門分野と、そこから遠く離れた「絵画や音楽」アート分野という「通常は交わることのない」分野を重ねたことにあると思います。当然ですが会計・絵画・音楽の分野には「それぞれの専門家」がいます。専門家の常として、みんなそれぞれの縄張りを守るのです。だからこそ〝領空侵犯〟に意味があったわけです。

異なる分野を重ねて統合して「掛け合わせ」をつくること。ゼロから新たな分野を創造しなくとも、既存分野の組み合わせだけでイノベーションを起こせます。私は今回それを実感しました。皆さんもぜひ「遠い世界」をのぞいてみてください。そこに思わぬヒントが転がっているかもしれません。その一歩として私の「会計の世界史」シリーズをご一読いただければうれしいです。

また、絵画を用いて会計を解説する動画をYoutubeチャンネル(@yasuhirotanaka9276)で提供しておりますので、ぜひ楽しい越境学習を体験してください。

■田中靖浩(たなか・やすひろ) 公認会計士、作家。三重県四日市市出身。早稲田大学商学部卒業後、外資系コンサルティング会社勤務を経て独立開業。会計・経営・歴史分野の執筆・講師、経営コンサルティングなど堅めの仕事から、落語家・講談師との共演、絵本・児童書を手掛けるなど幅広くポップに活躍中。「会計の世界史」(日本経済新聞出版社)などヒット作多数。

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