北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの発射を続ける一方、兵士をロシアからウクライナとの戦争に派遣している。北朝鮮の狙いは何か。日本や韓国など周辺国にどのような危険性があるだろうか。
こうした問題を考える際、できるだけ基礎理論をベースにしたほうがいい。
中国含め隣国が非民主主義国の危険地域
国際関係論の中で、最も理論らしい理論といわれているドイツの哲学者、イマヌエル・カントに由来する「民主的平和論」は、民主主義の程度が一定割合増すことで戦争のリスクが33%減少するというものだ。
さらに細かく分析すると、二国において、両方ともに民主主義国だとめったに戦争しないし、一方の国が非民主主義国だと、戦争のリスクは高まり、双方ともに非民主主義国なら、戦争のリスクはさらに高まる。
わが国の周りを見ると、中国、ロシアと北朝鮮という非民主主義国が隣国となっており、危険な地域だ。
ちなみに、英誌エコノミストの調査部門が毎年公表している「民主主義指数」(0~10で数字が高いほど民主主義的)の2023年版では、167カ国中、中国は「2・12」で148位、ロシアは「2・22」で144位、北朝鮮は「1・08」で165位だ。日本の民主主義指数は「8・40」で16位であるが、先進国の中では、韓国とともに最も危険な地域に存在しているといってもいい。
中国、ロシアと北朝鮮が民主主義国家になってくれれば、日本の安全保障環境は格段に良くなるが、それは体制崩壊を意味するので、全く期待できない。
中国と北朝鮮は、「中朝友好協力相互援助条約」により軍事同盟関係だ。また、中国とロシアは「上海協力機構」の中で友好関係にある。
その上で、今年6月19日、ロシアと北朝鮮は、有事の際の相互軍事支援を盛り込んだ「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。ソ連と北朝鮮は1961年、軍事同盟の「友好協力相互援助条約」を結んだが、冷戦終結やソ連崩壊を受けて96年に破棄された。その後、ロシアと北朝鮮は2000年には軍事同盟の要素がない「友好善隣協力条約」を締結していた。
新条約はロシアと北朝鮮の事実上の軍事同盟復活とも受け止められている。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記は「同盟」と言うが、プーチン大統領は「同盟」とは言っていないなど微妙な温度差もあるが、今回の北朝鮮のロシア支援は条約の実行でもある。
これは、北朝鮮から見れば、韓国から攻め込まれる確率を減らすことになる。北朝鮮が民主主義国なら朝鮮半島の安定化につながるが、独裁国家なので北朝鮮から韓国に攻め込む誘因が増す。実際、韓国はウクライナに武器支援をしており、北朝鮮と韓国との間で間接的な戦闘が行われているともいえる。それは近い将来の「朝鮮半島有事」を予見させるものだ。
朝鮮半島有事になれば、「日本有事」は目前の危機となる。そのとき、中国による「台湾有事」が起きれば、まさに日本は「ダブル有事」にもなりかねない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授)