いよいよ、第2次ドナルド・トランプ政権が始動しました。昨年11月の大統領選でトランプ氏が当選して以降、私が担当するニッポン放送の番組「OK! Cozy up!」(平日朝6時~)でも、さまざまなコメンテーターの皆さんに、「トランプ政権がどんな政策を打ってくるのか」「それに対し日本はどう動くべきなのか?」を伺ってきました。
また、年明け7日の経済三団体新年祝賀パーティーで企業経営者に今年の展望を聞きますと、やはり「米トランプ新政権との向き合い方」が話題の中心でした。
そこで多く聞いたのが、「毅然(きぜん)と」という言葉。トランプ政権が何を仕掛けてくるのか予見可能性が低い以上、本業をしっかりやっていくより他ないという、ある種のリアリスト思考がありました。
一方、国際政治や安全保障を専門とするコメンテーターの方々は、トランプ大統領を支えるスタッフに注目し、戦略を考える傾向がありました。その際よく聞く名前が、ペンタゴン(国防総省)ナンバー3の国防次官に就任するエルブリッジ・コルビー氏です。昨年10月に著書『アジア・ファースト 新・アメリカの軍事戦略』(文春新書)が出ていますが、本書の訳者である地政学・戦略学者の奥山真司さんや、監訳者でジャーナリストの峯村健司さんも番組によく出演してくださっています。
彼らが口々に言うのが「拒否戦略」。夕刊フジの名物コラム「ニュース裏表」で峯村さんが詳しく書かれていますが、台湾などこの地域における中国政府の軍事侵攻を拒否することができれば、現在の米国の東アジア、そして世界における優位は維持される。結果として、日本をはじめとする西側諸国の権益は、中国に奪われずに済む。
中国に「勝つ」ことを至上命題にするのではなく、手出しさせない現状維持を続けるためにどうバランスを保つのか? そのため、日本については防衛費増額が必要になるのだという論理です。勇ましい主戦論でも、「べき」を追求する理想論でもなく、「リアリスト」らしく冷静で論理的に選択肢を絞り込んでいきます。これは、結果を求めるビジネスマン出身のトランプ大統領にも説得的でしょう。
では、これに対し石破茂政権はどうか?
昨年末、「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」の次は、「アジア版OSCE(欧州安全保障協力機構)」という案が飛び出しました。これは今から中国も含めた多国間の話し合いの場をつくろうというもの。20年前のように中国の存在が小さい時代ならまだしも、現在の情勢にのっぴきならない危機感を抱く米政権からすれば、「何をお花畑なこと言ってんだ?」と一蹴されかねません。わざわざ、与党幹事長が北京まで行って提案することでしょうか?
ちなみに、ロシアも加入するOSCEがあってもウクライナ戦争は起こりました。今必要なのは、理想論よりもリアリストなのだと思います。
■飯田浩司(いいだ・こうじ) 1981年、神奈川県生まれ。2004年、横浜国立大学卒業後、ニッポン放送にアナウンサーとして入社。ニュース番組のパーソナリティーとして、政治・経済から国際問題まで取材する。現在、「飯田浩司のOK!Cozy up!」(月~金曜朝6―8時)を担当。趣味は野球観戦(阪神ファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書など。