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さらば、夕刊フジ 党内基盤の脆弱さを超える唯一の支え…石破首相就任後、前言を翻し封印し離れる〝世論〟鈴木哲夫氏が「筋」通した権力批評

zakzak by夕刊フジ 2025年1月22日 11時0分

過去の原稿データを検索した。「小沢一郎の次の一手」。夕刊フジで私が初めて長編を書かせてもらったのは民主党政権の内紛。2011年のことだ。以来、「永田町核心リポート」など発信の場を長くいただいた。

私は、ジャーナリズムは「権力のウオッチャー」だと思っている。常に在野にあれと。保守論調のイメージが強い夕刊フジ。安倍晋三政権など、保守色が強い自民党政権を批判する私のような記事はなじむのか。

だが、編集部の矢野将史氏(現編集長)が、私に言ってくれた言葉が忘れられない。

「鈴木さんは保守から革新まで取材して筋が通っている。『筋』こそ一番大事。安倍政権批判だってまったく問題ありません」

休刊は寂しい。残念だ。そんな私の夕刊フジ最後のリポートは、現政権の石破茂首相をサシで取材し、筋を通した論評にしたい。

石破首相の取材を始めて20年以上。昨年末には私のBS番組で30分対談した。また、何とか隙を突いて個別取材を試みている。首相は今の心情を包み隠さず語った。

「一日一日を乗り切っていくしかない。『アジア版NATO(北大西洋条約機構)』や『地位協定見直し』とか、もちろん言いたい。でも、党総裁選で圧勝したわけではないし、党内基盤も強くない。一気にやろうとしても実現できない。ならば一つ一つ党内で民主的に議論しながら実現していくしかない」

それでいいのか。「首相は目的ではなく政策実現のための手段」と言っていた。もっと自らの政策を出すべきだ。

最近、少数与党の国会運営について、「大連立」「不信任案が通ったら解散し衆参ダブル選挙」などの発言が取り上げられた。ただ、これはある意味「石破らしさ」だ。もともと理論的に語るタイプ。少数与党なら法案は通らないから大連立もある、不信任案には解散もある。そう答えるとメディアに切り取られた。

首相になった今は「らしさ」では済まない。TPO(時、場所、場面)に加え、権限や立場を考えると慎重な発言は今後の大きな宿題だ。

石破首相が今年ぶち当たる壁はヤマほどある。

ドナルド・トランプ米大統領と、どう対峙(たいじ)するのか。3月頭の来年度予算案衆院採決、内閣不信任案、参院選、東京都議選…。日米外交以外はリンクしていて、通常国会後半は大政局になる。

政権幹部の一人は「野党との話し合いは、やってみなければ分からない」と本音を漏らす。立憲民主党幹部は「本予算を可決したいなら、派閥裏金事件で森喜朗元首相の証人喚問を交換条件にするなど勝負しては。野田佳彦代表は『不信任カード』を切る腹は固めている」と話す。

石破首相を支えてきたのは世論だ。こう語った。

「丁寧に丁寧に説明し、国民の過半数が『それも一理あるな』と思ってくれれば野党も反対できない。国民に説明することに全力を挙げたい」

首相就任後、前言を翻し、封印し、世論は離れつつある。一丁目一番地の安全保障だけではなく、過去「石破らしく」主張してきた国民生活に近い選択的夫婦別姓や地方創生、防災などを臆することなく進めて世論の支持を得ることが、党内基盤の脆弱(ぜいじゃく)さを超える唯一の支えになる。政権維持の道はそれしかない。

■鈴木哲夫(すずき・てつお) 1958年、福岡県生まれ。早大卒。テレビ西日本報道部、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経て、現在、フリージャーナリスト。著書に『安倍政権のメディア支配』(イースト新書)、『戦争を知っている最後の政治家―中曽根康弘の言葉』(ブックマン社)、『石破茂の「頭の中」』(同)、『シン・防災論―「政治の人災」を繰り返さないための完全マニュアル』(講談社)など。

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