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勝負師たちの系譜 王位戦始まる 藤井聡太王位に挑戦する渡辺明九段、形勢99%からまさかの…間違えた逃げ方、ミスに気付き後悔したか

zakzak by夕刊フジ 2024年7月13日 10時0分

藤井聡太王位に渡辺明九段が挑戦する、伊藤園お~いお茶杯王位戦七番勝負が7月6、7日、名古屋市の『徳川園』から始まった。

藤井が防衛すれば、棋聖に次ぐ2つ目の永世称号を得ることになる。

徳川園は徳川御三家筆頭の、尾張藩二代藩主光友の隠居所として建てられた。

王位戦の第1局は、常に三社連合加盟社の一つ、中日新聞社のエリアから始まるから、愛知県瀬戸市出身の藤井がタイトルを持つ限り、挑戦者はアウェイの対局場から始まることになる。

もっとも百戦錬磨の渡辺にとっては、気にならないかもしれないが。

それより私は、今まで散々藤井に敗れてきた渡辺が、どのような心境で王位戦を戦うのかに興味があった。

渡辺はある意味正直で、特に藤井に対して負けが先行すると「シリーズは終わったけど、一局は勝つ義務がある」と本音を漏らすなど、驚かされたことがあった。

ただし今回は、直前に棋聖位の防衛はあったものの、伊藤匠叡王に8冠の一角を崩され、藤井でも負けることがあることを見せたばかりでの対決。渡辺の心境に変化があっても、おかしくはないとみていた。

案の定、渡辺は第1局の後手番に雁木戦法という、寝技的な戦法を選び、千日手に持ち込んだ。しかも指し直し局は、持ち時間が藤井は1時間なのに対し、渡辺は2時間以上残っているという好条件だ。

これを見てもいかに藤井が、千日手にならないよう時間を使ったかが分かる。

指し直し局は、渡辺が藤井の得意とする相掛かりに誘導し、序盤からペースを握った。

中盤以降も徐々に渡辺が優位を拡大していく、まさに渡辺の勝ちパターンとなった。

しかし勝ちが目前となり、形勢の針が渡辺に99%となったところで、渡辺は玉の逃げ方を間違え、優しく詰ますことができる形を逃してしまう。

それでも藤井玉は詰みなのだが、今度はかなり高度な読みを必要とする局面となってしまった。

多分渡辺はそのミスに気が付いて、後悔していたのではないか。

秒読みの中、要らぬ後悔があると、読みは正確さを欠いてくる。結局渡辺は、難しい詰みを逃して敗れた。

今までの苦手意識を全く感じさせない渡辺だったが、この後も同じ心境で指せるのか。勝ちを逃した影響がこの後出るのか、注目の王位戦となった。

青野照市(あおの・てるいち) 1953年1月31日、静岡県焼津市生まれ。68年に4級で故廣津久雄九段門下に入る。74年に四段に昇段し、プロ棋士となる。94年に九段。A級通算11期。これまでに勝率第一位賞や連勝賞、升田幸三賞を獲得。将棋の国際普及にも努め、2011年に外務大臣表彰を受けた。13年から17年2月まで、日本将棋連盟専務理事を務めた。

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