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勝負師たちの系譜 「王座戦」初防衛に王手かけた藤井聡太の強さ 相手として現在最強、永瀬拓矢九段に「そうやって勝つか」控室の検討陣も驚き

zakzak by夕刊フジ 2024年9月28日 15時0分

藤井聡太王座が永瀬拓矢九段を挑戦者に迎えた王座戦五番勝負が、9月4日、神奈川県秦野市『元湯陣屋』から始まった。

私はこの対局の立ち合いで、前日から同行した。

昨年は永瀬が王座として、藤井の八冠独占を阻止できるかどうかの、大勝負だった。

1995年に、羽生善治九段が七冠制覇を目指したとき、一度は谷川浩司十七世名人が阻止したことは、永瀬の意識の中にあったと思う。

いかに藤井が強かろうと、自分もタイトル保持者として、一度は責任を果たさねばと。

実際、1勝1敗の後の第3、4局は、終盤で永瀬の必勝形だった。形勢を示す数値も、一瞬は永瀬の90を超えるところまでいったのである。

しかし永瀬は2局とも、信じられないような負け方をした。プロなら秒読みでも、絶対にそこには手が行かないという手を指して。

それでも永瀬はリベンジを果たすべく、今期は挑戦者決定戦で羽生を破り、五番勝負に戻ってきた。

今期こそは気持ちの上で負けないようにと思ってか、対局の30分前から盤の前に座り、気合を高めていた。

永瀬の先手番となった第1局は、後手の藤井が変則的な△3三金型の早繰銀に誘導し、前例のない戦いになった。

それでも永瀬はあくまで焦らずに待ち、相手に攻めさせて反撃する、得意のパターンに持ち込んだかに見えた。

しかし途中で受けに徹しないで、反撃に転じたのが悪く、打った銀が遊び、永瀬は形勢を損じた。

一旦優勢になってからの藤井は、控室にいる検討陣を「そうやって勝つのか」と、驚かせる手順で勝ちにいき、先勝した。

続く第2局は、双方得意の角交換腰掛銀に進むと、永瀬は「研究は十分」とばかり、わずか数分しか使わず、中盤の難所を越えていく。

しかし藤井にアッと驚く、銀を王手でただ取らせる手を指されると、永瀬もペースが狂ったか、対応が悪かったようで、そこからは藤井が確実に勝勢を築いて勝利した。

この将棋は永瀬に良い所がなく敗れた形で、他の棋士と同じような徐々に差がついていく負け方になった、と私は感じた。

「どうせ勝てないから」と思わせるのが、一番楽な勝ち方というのは、大山十五世名人、羽生らでよく見てきたが、藤井の相手として現在最強と思わせる永瀬にも、その感覚を持たせたのか、第3局に注目したい。

青野照市(あおの・てるいち) 1953年1月31日、静岡県焼津市生まれ。68年に4級で故廣津久雄九段門下に入る。74年に四段に昇段し、プロ棋士となる。94年に九段。A級通算11期。これまでに勝率第一位賞や連勝賞、升田幸三賞を獲得。将棋の国際普及にも努め、2011年に外務大臣表彰を受けた。13年から17年2月まで、日本将棋連盟専務理事を務めた。

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