先週、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が「非常戒厳」を宣言したのには驚いた。ただ、軍がほとんど何もしないうちに国会で解除決議案が可決され、わずか6時間で解除が表明された。その後、野党側が提出した尹氏への弾劾訴追案が否決…という目まぐるしい展開には、付いていくのがやっとだった。
弾劾案採決の前日には、与党代表が弾劾に賛成する意向を示した。弾劾が可決され、すぐ大統領選挙が行われれば「親中」かつ「反日」強硬派とされる最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表が次期大統領になる可能性が高まり、日米両政府に緊張が走った。
李氏が大統領になれば、東アジアにおける「日米韓」対「中朝露」の軍事バランスが崩れるとの懸念がある。ただ、李氏は11月に公選法違反で有罪の一審判決を受けている。最高裁で有罪が確定すれば、公民権停止となって大統領選には出られなくなる。
注目の弾劾決議は否決され、尹氏は一応、その地位にとどまることになった。西側諸国で、ホッと胸をなで下ろしている人は多いだろう。
しかし、尹氏の「年明け退陣説」もある。李氏の有罪確定前に大統領選が実施されれば、李氏が出馬して当選もあり得るという。
韓国与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表は、今後の国政運営は韓悳洙(ハン・ドクス)首相と緊密に協議しながら当たっていく方針を表明したが、そんなことは可能なのか。野党はさらに強硬となり、政府与党の政策をすべて潰しにかかるだろう。韓国の政治はすでに壊れてしまったように見える。
政治が「壊れて」いるのは韓国だけではない。
日本では自民党と公明党が少数与党となり、補正予算に賛成してもらうため、野党の国民民主党が提案している「減税」について協議をしているが難航中だ。
他のG7(先進7カ国)諸国を見ても、米国は「またトラ」だし、ドイツでは連立が崩壊して年明けに首相の信任投票が行われる。フランスでは内閣不信任案が可決されて総辞職するなど、各国ともなかなか大変な状況だ。
経済的には豊かな国々で、景気もさほど悪いわけでもないのに、なぜ与党の政権運営がうまくいかないのか。おそらく最大の理由はインフレによる物価高で、所得が増えていない人たちの生活が苦しくなっていることだろう。
その背景には日本ではまだ顕著ではないが、少子化による労働力不足を補うための急激な「移民政策の推進」などによる社会の混乱もある。
各国の状況を見れば、日本が何をすべきかは明白だ。
自公与党は、国民民主党が提案する「103万円の壁撤廃」や「トリガー条項凍結解除」などの減税策を飲むしかない。それをきっかけに国民民主党と連立協議をすることだ。
そして、移民政策は慎重に。選択的夫婦別姓など、日本の伝統や国家の根幹に関わる問題も、時間をかけて話し合わないと国が分断されてしまうので注意が必要だ。これらについて、与党は国民民主党だけでなく、比較的考えが近い日本維新の会とも連携した方がいいのではないか。 (フジテレビ客員解説委員)