米国の第47代大統領に就任したドナルド・トランプ氏は20日、就任式が終わると、支援者の集まるワシントン市内のアリーナに向かった。さっそく大統領の権限で政策などを指示する大統領令に次々と署名をした。
選挙中の公約通り、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」から離脱する大統領令や、不法移民の入国阻止に向けた「非常事態宣言」など数十本に及ぶ。「就任初日に100本署名する」という公約を実行したかたちだ。トランプ氏はサインをしたペンを、聴衆に投げるパフォーマンスをすると、観衆からは拍手と喝采が起きた。
これについて、多くの日本のメディアや専門家は「非合理的な政策ばかりで実現できない」「大統領令に署名したペンを投げるのは不見識」など否定的な評価だった。「100本も大統領令を出すトランプ氏の異常性を教えてください」と依頼してきたテレビ局のディレクターもいた。
だが、歴代の米国大統領と比較すると、今回のトランプ氏が必ずしも突出しているわけではない。過去最多はフランクリン・ルーズベルト大統領で、計3721本の大統領令を出している。そもそも、議会を通さずに「抜け穴」的に大統領令を出すやり方は、少数与党だったバラク・オバマ大統領から本格化したものだ。
就任初日に公約通りに大統領令を出したトランプ氏の行為こそ、有権者の負託に応える「民主主義の手本」だと筆者は評価している。
筆者は2016年の大統領選の時から、トランプ氏を取材している。
「これまでの大統領は選挙中だけ有権者に耳心地のいい話をするだけだった。だが、トランプ氏は本当に公約を実現してくれる」
トランプ氏を支持する理由について、多くの支援者が挙げる理由だ。平然と公約を覆したり、無かったことにしたりする日本の政治家は、トランプ氏の爪のあかを煎じて飲むべきだろう。
テレビやラジオで筆者がこうした発言をすると、「トランプ支持派」「陰謀論」などと批判されることが少なくない。個人的な感情やイデオロギーではなく、専門家としての分析であることは言うまでもない。
筆者は15年から3年間、ワシントン特派員としてオバマ政権2期目の後半とトランプ政権1期目の前半をそれぞれ、ほぼ同期間取材してきた。いずれの政権にも幅広い人脈を持っており、今でも定期的に意見交換は重ねている。そのうえでの公正な判断であることは言うまでもない。
トランプ氏の当選後もなお、「トランプ氏は民主主義にとって危険人物」などと評している専門家の「トランプ異質論」こそが、民主主義の否定であり、レッテル貼り以外の何物でもない。トランプ政権は今後4年間続く。その後も「トランプ思想」は米国の潮流として残っていく可能性が高いと筆者はみている。
日本に今求められているのは、「トランプ異質論」ではなく、客観的でファクトに基づいた米国の政治や社会の分析なのだ。 (キヤノングローバル戦略研究所主任研究員 峯村健司)